【問】世帯外の母が契約者で,私を被保険者及び受取人とする生命保険に加入していますが,私が受け取った入院給付金の全額を母の銀行口座に振り込んでも,私の収入として認定されるのですか。

 

 世帯外の母が契約者で、私を被保険者及び受取人とする生命保険に加入していて、先日、私が入院給付金を受け取りましたが、母が生命保険の保険料を支払っていますので、入院給付金の全額を母の銀行口座に振り込みました。

 しかし、担当のケースワーカーは、世帯外の母が生命保険の保険料を支払っており、入院給付金の全額を母に手渡したとしても、あなたが入院給付金の受取人になっているので、入院給付金は収入認定することになると言われました。

入院給付金を収入認定されなくてすむ方法はないでしょうか。

 

 

【答】

 生命保険や傷害保険の入院給付金は,通常、診断書料や8,000円を控除した上で、収入として認定されます。

 個人的には入院給付金の特約保険料については、必要経費として入院給付金から控除してよいのではないかと思いますが、厚生労働省は、入院給付金の特約保険料を、必要経費として入院給付金から控除することを認めていません。

 

 そこで、入院給付金の収入認定で問題になりますのは、世帯外の両親や子が、生活保護受給世帯内の世帯員を被保険者として、生命保険や医療保険、傷害保険の契約者になっている場合に、入院給付金の受取人は 誰になるのかということです。

 

 「生活保護手帳 別冊問答集」問3-25答(3)においては,入院給付金の受取人については,「入院給付金は,通常 契約者ではなく,被保険者に対して支払われるので留意が必要である。」と記載されていますが,私は,以前から「生活保護手帳 別冊問答集」問3-25答(3)の記載内容に疑問を持っていました。

 それは,生命保険や医療保険,傷害保険の入院給付金において,被保護者が被保険者で,被保護世帯外の者が 保険契約者及び保険金(入院給付金を含む)の受取人である保険契約を,多数見てきたからです。

 

 インターネットで調べると,「医療保険」については,一般的には入院給付金等の受取人は,被保険者がなることが多いという記載はありますが,保険会社や保険の商品によっては,入院給付金等の受取人は 被保険者以外の者(保険契約者等)を指定できると記載されています。

 

 また,保険法第43条及び第72条において,「保険契約者は,保険事故が発生するまでは 又は 給付事由が発生するまでは,保険金受取人の変更をすることができる。 保険金受取人の変更は,保険者に対する意思表示によってする。」(保険金受取人の変更にあたって,保険者(=保険会社)の同意は必要ない。)規定されています。

 

 ケースワーカーの中には、生活保護受給者が入院したときは、医療費は医療扶助として福祉事務所が病院に支払うのだから、入院給付金については、当然、被保険者である生活保護受給者が受け取り、収入認定すべきであると考えている人もいます。

 

 確かに生活保護受給者が 保険契約者かつ被保険者の場合は、入院給付金は収入認定すべきであると思いますが、 世帯外の親や子が、生活保護受給世帯内の世帯員を被保険者として生命保険や傷害保険の契約者になっている場合に、世帯外の親や子は、「自分が保険料を支払っているのであるから、入院給付金も自分が受け取るのが当然であり、自分の資産である生命保険や医療保険、傷害保険に対して、福祉事務所から、とやかく言われる筋合いはない。」と考える人も多いようです。

 

 したがって、生命保険や医療保険、傷害保険の契約内容を見て、世帯外の親や子が、生活保護受給世帯内の世帯員を被保険者として生命保険や医療保険、傷害保険の契約者になっている場合は、入院給付金の受取人は 誰であるのかを確認し、入院給付金の受取人が生活保護受給世帯内の世帯員の場合は、生活保護受給世帯の収入として認定されることは、やむを得ないのではないかと思われます。

 

 しかし、平成28年10月4日の山形県知事裁決(次の資料を参照)では、「保護の実施における収入認定の取扱いは、機械的、画一的に行うものではなく、被保護者の利用し得る資産であるかどうかを 個別に実態をよく把握して判断する必要があるが、本件において、これまでにみた事案の実態を考慮すれば、請求人が○○○○の口座に振り込んだ金額△△△△△円については、現に請求人の手元にはないことから、これは事実上、請求人の利用し得る資産とみることはできないものと認められる。  処分庁は、請求人名義の口座に本件給付金が入金されたことのみをもって、これを請求人の収入として保護の要否判定を行い、法第26条の規定により本件処分を行ったものであるが、これは請求人の利用し得る資産とみることができないものを 請求人の資産とみなし、収入と認定して行ったもので、本件事案の実態を考慮しない不当な処分であると認められる。」として、市の処分を取り消しました。

 したがって、上記の場合において、入院給付金の収入認定に納得できないときは、都道府県知事への審査請求を検討してもよいかもしれません。

 

 

 

(参考)

○別冊問答集

問3-24 保護開始申請時の保険解約の取扱い

(問)

 保護開始の際,保険解約を要しない場合の取扱いについて,次の点を具体的に教示されたい。

(1)解約を要しない保険の種類

(2)返戻金が少額であり,かつ,保険料額が当該地域の一般世帯との均衡を失しない場合とは,どういう場合か。

(3)解約を要しない場合は,法第63条を適用することを条件にしているが,解約返戻金を受領した時点での費用返還の対象となる資産はどれか。

 

(答)

(1)保険は解約返戻金がでるのであれば,これを解約し「利用し得る資産」として,直ちに最低生活の維持のために活用させることが原則である(ここにいう保険は,解約すれば返戻金の出る保険をいう。解約返戻金の出ない損害保険の場合には,この活用の問題は生じない。)。しかし,解約返戻金が生じる保険であっても,保護の開始にあって解約させて返戻金を活用させることが社会通念上適当でないものもある。 すなわち,生命保険は被保険者の生死を保険事故とし,その事故が発生したときに保険者が一定の保険金を支払うことを約し,保険契約者が保険料を支払うことを約する保険であるが,このように保険には「万一の場合に備える」という保障的性格に意味があり,日常の生活費の不足を補うために保険を中途で解約することは,むしろ例外とされている。 したがって,保険解約返戻金は「資産」とはいっても,払いもどしを当然に予定している貯金とはかなり性質を異にしているので,少額の解約返戻金まで活用を求めるのは,社会通念上適当ではなくなってきている。 また,解約はかえって保護廃止後の世帯の自立更生に支障を生じるおそれもある

 以上の事情を考慮し,解約返戻金が少額であり,かつ保険料額が当該地域の一般世帯との均衡を失しない場合には保護開始に当たっても,直ちに解約して活用することを要しないという取扱いをすることができることとされている。 しかし,解約返戻金はあくまで「利用し得る資産」であることには疑問の余地はないから,保険金等を受領した時点で所定の額を返還すべきものとしている。

 以上の趣旨から,解約を要しない保険の種類は,危険対策を目的とするものに限り認められるものであり,貯蓄的性格が強いと思われる養老保険等の保有は認められない。(貯蓄的性格が強くなくとも,下記に示す程度の保険料及び解約返戻金を超えるものについては保有は認められない。)  また,要保護世帯に保険による保障の効果が及ばないもの 及び 世帯員の危険を保障するものでないもの解約させるべきである。(なお,学資保険には別途 定めがある。)

 この場合,単身世帯であっても,傷病による入院後遺障害等に対する給付など保障の効果が単身世帯自体に及ぶ場合もあるので留意すること

 なお,以上の要件を満たすものであれば,民間会社による一般の生命保険,郵便局の簡易保険あるいは農協等の生命共済などの種類を問わない。

 

(2)解約返戻金が少額であるかの判断については,医療扶助を除く最低生活費の概ね3か月程度以下を目安とされたい。 また,保険料額の当該地域の一般世帯との均衡の判断については,家計調査(総務省)等による保険料の消費支出に占める割合及び生命保険に関する全国実態調査(生命保険文化センター)による保険掛け金の対年収比率の実態に照らして,医療扶助を除く最低生活費の1割程度以下を目安とされたい。

 

(3)申請時点における解約返戻金の額に相当する部分については,資力がありながら保護を受けていたものとして整理されることから,法第63条により返還の対象となるが,申請時点における解約返戻金の額に相当する部分を超える部分(保護開始後において保護費を原資とする部分)については,保護費のやり繰りにより生じた金銭と同様に,その使途が保護の趣旨目的に反しない場合については,保有を容認することとして差しつかえない。

 なお,保険の解約を要しないものとして保護を開始する場合は,法第63条による返還義務を文書により明らかにした上で保護を開始すること。

 

 

問3-25 保護受給中に受領した生命保険の解約返戻金,保険金等の取扱い

(問)

 保護開始時に保有の認められた生命保険について,保護受給中に解約返戻会や死亡保険金,入院給付金等を受領した場合の取扱いを示されたい。

 

(答)

 次のとおり取り扱われたい。

(1)満期保険金及び中途解約の場合の解約返戻金

 保護開始時の解約返戻金相当額については,法第63条により返還させることとなる。

 また,開始時の解約返戻金相当額以外の額については,課第3の20に従い,その使用目的が生活保護の趣旨目的に反しない限り,収入認定の除外対象として取扱う。

 

(2)配当金,割戻金等の一時金

 (1)とは異なり,保険契約は継続されており未だ資産としての保険を保有している状態にあることから,解約返戻金相当額について考慮する必要はない。

 また,配当金等は,支払った保険料の還付の性格を有していることから,(1)の後段同様,その使用目的が生活保護の趣旨目的に反しない限り,収入認定除外対象として取り扱って差し支えないものである。

 ただし,保護開始直後に配当金等が入った場合など保護開始後に支払った保険料の額を超える配当金等が入った場合には,その超える額について,次第8の3の(2)のエの(イ)により,8,000円を超える額を収入認定することとされたい。

 

(3)入院給付金等の保険給付金

 (2)と同様,保険契約は継続されており未だ資産としての保険を保有している状態にあることから,解約返戻金相当額について考慮する必要はない。

 しかしながら,保険事故に対する給付は「保護費のやりくりによって生じた預貯金等」にはあたらないものである。 よって,次第8の3の(2)のエの(イ)により,8,000円を超える額について収入認定を行うこととなる。

 なお,入院給付金は,通常 契約者ではなく,被保険者に対して支払われるので留意が必要である。

 

(4)死亡保険金(同居している世帯員に支払われた場合)

 保護開始時の解約返戻金相当額については,法第63条により返還させることとなる。

 一方で,保険事故に対する給付は,「保護費のやりくりによって生じた預貯金等」にはあてはまらないため,開始時の解約返戻金相当額以外の額については,次第8の3の(3)のキに該当するものを除き,次第8の3の(2)のエの(イ)により,8,000円を超える額について収入認定を行うこととなる。

 

 

 

山形県知事裁決書

 

          裁 決 書

 

 

                    審査請求人

 

                    処 分 庁  酒出市福祉事務所長

 

 

 平成28年7月14日付けで審査請求人から提出された、処分庁が行った生活保護法による保護の廃止決定処分に対する審査請求について、次のとおり裁決する。

 

                主       文

 

 本件審査請求に係る処分を取り消す

 

 

事 案 の 概 要

 

1 審査請求人(以下「請求人」という。)は、処分庁を実施機関として平成25年7月25日から生活保護を開始した。

2 請求人の入院を理由として、生命保険の特約に基づく給付金がから支払われた。当該保険「以下F本件保険」という。)の契約者は請求人の_ 氏(以下「_」という。)で、被保険者及び当該給付金の受取入は請求人となっており、平成28年5月10日に   円、合計     円(以下「本件給付金」という。)が当該ら請求人名義の金融機関口座に振り込まれた。

 なお、本件保険の契約日は、平成_年_月_日となっている。

3 請求人は、_の金融機関口座に平成28年5月19日に    円を、同年6月6日に    円を振り込んだ。

 

4 処分庁は、請求人名義の金融機関口座に振り込まれた本件給付金について、「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和36年4月1日厚生省発社第123号厚生事務次官通知(以下「次官通知」という。))の第8の3の(2)のエの(イ)に基づき、請求人の「保険金その他の臨時的収入」と判断し、同年6月27日に保護の要否判定を行い、収入充当額が請求人の最低生活費を上回るとして同年5月1日付けで保護の廃止を決定(以下「本件処分」という。)し、同年6月27日付け保護廃止決定通知書により請求人に通知した。

5 請求人は、本件処分を不服として平成28年7月14日付けで審査請求を提起した。

 

 

審理関係人の主張の要旨

 

1 請求人の主張

(1)請求人は.本件処分の取り消しを求めると主張している。

(2)また、提起の理由を、本件処分の理由とされた本件給付金は、_が請求人を被保険者として掛け、_が支払っていた保険によるものであるため、_が受け取るお金であるから、請求人の口座に入金後そのまま_の口座に振り込んでいるにもかかわらず、請求人の収入とされたことが不当であるとしている。

 

2 処分庁の主張

(1)処分庁は、本件審査請求を棄却とする裁決を求めると主張している。

(2)本件処分は、請求人が本件給付金を受領したことによって法第26条に規定する「被保護者が保護を必要としなくなったとき」に該当するため、行ったものであると主張している。

(3)請求人が受領した本件給付金は、次官通知に基づき、保険金その他の臨時的収入として認定すべき性質のものであり、法第4条に規定する保護の補足性の 原則からも請求人世帯の収入とみなすことが妥当と主張している。

 

 

理    由

 

1 本件に係る法令等の規定について

(1)法第4条で「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産.能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる」と保護の補足性について規定しており、これは法第5条において「この法律の基本原理であって、この法律の解釈及び運用は、すべてこの原理に基づいてされなければならない」とされている。

(2)法第8条第1項では、「保護は、厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし、そのうち、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする」とされており、保護の要否及び程度の決定は、次官通知第10により、この基準により認定した最低生活費と同通知第8によって認定した収入との対比によって決定するとされている。

(3)次官通知第8の3には収入の認定指針が示されており、(2)のエの(イ)に保険金その他の臨時的収入の取り扱いが定められている。

(4)法第26条では、[保護の実施機関は、被保護者が保護を必要としなくなったときは、速やかに、保護の停止又は廃止を決定し、書面をもつて、これを被保護者に通知しなければならない」とされている。

(5)生命保険契約に関しては、本件保険契約に適用される平成20年法律第57号による改正前の商法第675条第1項では、「保険金額ヲ受取ルヘキ者力第三者ナルトキハ其第三者八当然保険契約ノ利益ヲ享受ス但保険契約者カ別段ノ意思ヲ表示シクルトキハ其意思二従フ」とされている。

 

2 本件処分について

(1)本件保険にっいては、契約者はーであり、保険料についても契約者である_が支払っているものであるが、本件給付金は1の(5)にあるとおり、本件給付金の受取人である請求人が当然に保険契約の利益を受けるもので、請求人固有の財産といえることから、本件給付金が請求人の口座に支払われた時点においては、本件給付金は請求人の資産であると認められる。

(2)しかしながら、請求人は (1)について不知のまま、本件保険の契約者は_であり、保険料についても_が支払っているものであるから本件給付金は_の資産であって請求人の資産ではないと誤認し、事案の概要の3にあるとおり、口座に入金のある都度、合計   円を_の口座に振り込んでいることにより、当該金額は請求人の手元にはない状況となっている。

(3)(2)に関連し、保険契約に基づき支払われる保険金等については、相続税法では、保険金等を保険料負担者以外の受取人が取得した場合は、保険料負担者からの贈与により取得したものとみなすと取扱うものがあり、ここには当該保険金等は保険料負担者の財産とみなすという含意があることから、この例などをみれば、請求人が本件給付金を_の資産と誤認したとしてもやむを得ない面があるといえる。

 また、請求人の本件給付金は_のものであるという主張と、請求人が本件給付金のほぼ全額に相当する   円を_の口座に振り込んだという事実とは、整合哇があると認められる。

(4)保護の実施における収入認定の取扱いは、機械的、画一的に行うものではなく、被保護者の利用し得る資産であるかどうかを個別に実態をよく把握して判断する必要があるが、本件において、これまでにみた事案の実態を考慮すれば、請求人が_の口座に振り込んだ金額   円については、現に請求人の手元にはないことから、これは事実上 請求大の利用し得る資産とみることはできないものと認められる

(5)処分庁は、請求人名義の口座に本件給付金が入金されたことのみをもって、これを請求人の収入として保護の要否判定を行い、法第26条の規定により本件処分を行ったものであるが、これは 請求人の利用し得る資産とみることができないものを 請求人の資産とみなし、収入と認定して行ったもので、本件事案の実態を考慮しない不当な処分であると認められる

 

3 結 論

 以上のとおり、本件審査請求には理由があることから、行政不服審査法第46条第1項の規定により、主文のとおり裁決する。

 

 

   平成28年10月4日

 

                      審査庁 山形県知事 ○○○○