【問】私は 生命保険に加入していますが,その保有要件について教えてください。

 

 私は 生命保険に加入していますが,生活保護を受けたときに,生命保険の保有を容認される場合と,解約を指導される場合があると聞きますが,生命保険の保有要件について教えてください。。

 

 

【答】

 生命保険の保有要件について,まず初めに「生活保護手帳」「別冊問答集」の規定に基づいて説明します。

 

 生命保険については,「別冊問答集」の「問3-24 保護開始申請時の保険解約の取扱い」において,「保険には『万一の場合に備える』という保障的性格に意味があり,‥‥ 保険解約返戻金は『資産』とはいっても,払いもどしを当然に予定している貯金とはかなり性質を異にしているので,少額の解約返戻金まで活用を求めるのは,社会通念上適当ではなくなってきている。」とされており,2人以上世帯の場合は,次の4つの要件をすべて満たすときは,保有が容認されています。

 

 また,単身世帯の場合は,死亡保険については,保険による保障の効果が世帯員に及ばないので(次の④を満たさない),保有は認められていませんが, 単身世帯の場合であっても,入院給付金付の生命保険については,保険による保障の効果が世帯員に及びますので,次の要件をすべて満たすとして,保有が容認されています。

 

<生命保険の保有容認の要件>

① 解約返戻金が少額であること。

(医療扶助・介護扶助を除く 最低生活費の概ね3か月程度以下を目安とする。)

 

② 保険料額が当該地域の一般世帯との均衡を失しないこと。

 (医療扶助・介護扶助を除く 最低生活費の1割程度以下を目安とする。)

 

③ 世帯員の危険対策を目的とするものであること。

(貯蓄的性格が強いと思われる養老保険等の保有は認められない。)。

 

④ 保険による保障の効果が世帯員に及ぶもの

単身世帯の死亡保険は 保有を認められないが,単身世帯であっても,傷病による入院,後遺障害等に対する給付など,保障の効果が単身世帯自体に及ぶものは 保有を認めて差し支えない。)。

 

 そこで,生命保険の保有について,具体的な事例をあげて説明します。

 

<保護開始時の生命保険(死亡保険)の解約返戻金を10万円,死亡保険金を1,000万円と仮定します。>

 

(1)2人世帯の場合で,(主)が 死亡保険の契約者・被保険者,(妻)が保険金受取人であり,死亡保険の保有が容認されたとします。この場合,(主)には解約返戻金相当額の保護費10万円の第63条返還義務があります。

 保護開始後の令和5年10月10日に(主)が亡くなり,葬祭扶助費を(妻)(=喪主)に支給し,(妻)が11月15日に1,000万円の保険金を受領したので,11月15日付で生活保護が廃止となります。

 この場合,(妻)は,「① 10月10日(保険金の資力発生日は (主)の死亡日)から11月14日(保護廃止日の前日)までに支払った保護費(医療費を含む)」,「② 葬祭扶助費」,「③ 解約返戻金相当額の保護費10万円((主)の第63条返還義務を 相続人である(妻)が相続したもの)」の3つについて,生活保護法第63条により返還を求められます。

 

(2)2人世帯の場合で,(主)が 死亡保険の契約者・被保険者,(妻)が保険金受取人であり,死亡保険の保有が容認されたとします。この場合,(主)には解約返戻金相当額の保護費10万円の生活保護法第63条返還義務があります。

 保護開始後の令和5年10月10日に (妻)(=受取人)が亡くなり,(主)の死亡保険の保有要件を満たさなくなったので,(主)は死亡保険の解約を指導され,解約返戻金受領後に,生活保護法第63条により,(主)は 解約返戻金相当額の保護費10万円の返還を求められます。

 

(3)単身世帯の場合で,(主)が 入院給付金付きの生命保険にしており,(主)が契約者・被保険者,(長男)(=世帯外)が保険金受取人で,生命保険の保有が容認されたとします。この場合,(主)には解約返戻金相当額の保護費10万円の生活保護法第63条の返還義務があります。

 保護開始後の平成5年10月10日に(主)が亡くなったので,10月11日付で生活保護が廃止され,遺族である(長男)(=世帯外)が互助会による(主)の葬儀を行ったため,葬祭扶助費は支給されません。

 この場合,生活保護法第63条により,遺族である(長男)(=世帯外)は,解約返戻金相当額の保護費10万円(つまり,(主)の第63条返還義務を 相続人である(長男)が相続したもの)について返還を求められます(「別冊問答集」問13-12,問13-14)。

 

 そこで,疑問が生じますのは,単身世帯については,掛け捨ての死亡保険(解約返戻金0円)の保有が認められるのかということです。

 解約返戻金が0円の場合は資産でないし,保護費のやり繰りにより保険料を捻出するものですから,保護開始時に加入している場合であっても,保護受給中に加入した場合であっても,保有を認めてもよいような気がしますが, 単身世帯については,掛け捨ての死亡保険(解約返戻金0円)であっても,生命保険の保有要件である前記条件の「④ 保険による保障の効果が世帯員に及ぶもの。」を満たさないので,保有は認められないということになります。

 

 

 以上が,「生活保護手帳」「別冊問答集」の規定に基づいた説明です。

 しかし,上記の(2)において,2人世帯のうち1人が亡くなったときは,死亡保険の保有要件を満たさなくなったので,原則は 死亡保険の解約を指導し,解約返戻金受領後に,生活保護法第63条により解約返戻金相当額の保護費10万円の返還を求めることとなっていますが,実際は,死亡保険の解約指導を行うことは少ないように思います。

 

 また,先に説明したとおり,単身世帯の場合は,死亡保険については,保険による保障の効果が世帯員に及ばないため,保有は認められていませんが, 単身世帯の場合であっても,入院給付金付の死亡保険については,保険による保障の効果が世帯員に及ぶので,保有が容認されていることから,可能であれば,死亡保険に入院給付金の特約を付ければよいと思います(入院給付金特約の保険料は 比較的安い。)。

 

 

 

(参考)

○別冊問答集

問3-24 保護開始申請時の保険解約の取扱い

(問)

 保護開始の際,保険解約を要しない場合の取扱いについて,次の点を具体的に教示されたい。

(1)解約を要しない保険の種類

(2)返戻金が少額であり,かつ,保険料額が当該地域の一般世帯との均衡を失しない場合とは,どういう場合か。

(3)解約を要しない場合は,法第63条を適用することを条件にしているが,解約返戻金を受領した時点での費用返還の対象となる資産はどれか。

 

(答) 

(1)保険は解約返戻金がでるのであれば,これを解約し「利用し得る資産」として,直ちに最低生活の維持のために活用させることが原則である(ここにいう保険は,解約すれば返戻金の出る保険をいう。解約返戻金の出ない損害保険の場合には,この活用の問題は生じない。)。しかし,解約返戻金が生じる保険であっても,保護の開始にあって解約させて返戻金を活用させることが社会通念上適当でないものもある。

 すなわち,生命保険は被保険者の生死を保険事故とし,その事故が発生したときに保険者が一定の保険金を支払うことを約し,保険契約者が保険料を支払うことを約する保険であるが,このように保険には「万一の場合に備える」という保障的性格に意味があり,日常の生活費の不足を補うために保険を中途で解約することは,むしろ例外とされている

 したがって,保険解約返戻金は「資産」とはいっても,払いもどしを当然に予定している貯金とはかなり性質を異にしているので,少額の解約返戻金まで活用を求めるのは,社会通念上適当ではなくなってきている。 また,解約はかえって保護廃止後の世帯の自立更生に支障を生じるおそれもある

 

 以上の事情を考慮し,解約返戻金が少額であり,かつ保険料額が当該地域の一般世帯との均衡を失しない場合には保護開始に当たっても,直ちに解約して活用することを要しないという取扱いをすることができることとされている。 しかし,解約返戻金はあくまで「利用し得る資産」であることには疑問の余地はないから,保険金等を受領した時点で所定の額を返還すべきものとしている。

 

 以上の趣旨から,解約を要しない保険の種類は,危険対策を目的とするものに限り認められるものであり,貯蓄的性格が強いと思われる養老保険等の保有は認められない(貯蓄的性格が強くなくとも,下記に示す程度の保険料及び解約返戻金を超えるものについては保有は認められない)また,要保護世帯に保険による保障の効果が及ばないもの 及び世帯員の危険を保障するものでないもの解約させるべきである。(なお,学資保険には別途定めがある。)

 この場合,単身世帯であっても,傷病による入院後遺障害等に対する給付など保障の効果が単身世帯自体に及ぶ場合もあるので留意すること

 なお,以上の要件を満たすものであれば,民間会社による一般の生命保険,郵便局の簡易保険あるいは農協等の生命共済などの種類を問わない。

 

(2)解約返戻金が少額であるかの判断については,医療扶助を除く最低生活費の概ね3か月程度以下を目安とされたい。 また,保険料額の当該地域の一般世帯との均衡の判断については,家計調査(総務省)等による保険料の消費支出に占める割合及び生命保険に関する全国実態調査(生命保険文化センター)による保険掛け金の対年収比率の実態に照らして,医療扶助を除く最低生活費の1割程度以下を目安とされたい

 

(3)申請時点における解約返戻金の額に相当する部分については,資力がありながら保護を受けていたものとして整理されることから,法第63条により返還の対象となるが,申請時点における解約返戻金の額に相当する部分を超える部分(保護開始後において保護費を原資とする部分)については,保護費のやり繰りにより生じた金銭と同様に,その使途が保護の趣旨目的に反しない場合については,保有を容認することとして差しつかえない。

 なお,保険の解約を要しないものとして保護を開始する場合は,法第63条による返還義務を文書により明らかにした上で保護を開始すること。

 

 

問3-25 保護受給中に受領した生命保険の解約返戻金,保険金等の取扱い

(問)

 保護開始時に保有の認められた生命保険について,保護受給中に解約返戻会や死亡保険金,入院給付金等を受領した場合の取扱いを示されたい。

 

(答)

 次のとおり取り扱われたい。

(1)満期保険金及び中途解約の場合の解約返戻金

 保護開始時の解約返戻金相当額については,法第63条により返還させることとなる。

 また,開始時の解約返戻金相当額以外の額については,課第3の20に従い,その使用目的が生活保護の趣旨目的に反しない限り,収入認定の除外対象として取扱う。

 

(2)配当金,割戻金等の一時金

 (1)とは異なり,保険契約は継続されており未だ資産としての保険を保有している状態にあることから,解約返戻金相当額について考慮する必要はない。

 また,配当金等は,支払った保険料の還付の性格を有していることから,(1)の後段同様,その使用目的が生活保護の趣旨目的に反しない限り,収入認定除外対象として取り扱って差し支えないものである。 ただし,保護開始直後に配当金等が入った場合など保護開始後に支払った保険料の額を超える配当金等が入った場合には,その超える額について,次第8の3の(2)のエの(イ)により,8,000円を超える額を収入認定することとされたい。

 

(3)入院給付金等の保険給付金

 (2)と同様,保険契約は継続されており未だ資産としての保険を保有している状態にあることから,解約返戻金相当額について考慮する必要はない。

 しかしながら,保険事故に対する給付は「保護費のやりくりによって生じた預貯金等」にはあたらないものである。 よって,次第8の3の(2)のエの(イ)により,8,000円を超える額について収入認定を行うこととなる。なお,入院給付金は,通常契約者ではなく,被保険者に対して支払われるので留意が必要である。

 

(4)死亡保険金(同居している世帯員に支払われた場合)

 保護開始時の解約返戻金相当額については,法第63条により返還させることとなる。

 一方で,保険事故に対する給付は,「保護費のやりくりによって生じた預貯金等」にはあてはまらないため,開始時の解約返戻金相当額以外の額については,次第8の3の(3)のキに該当するものを除き,次第8の3の(2)のエの(イ)により,8,000円を超える額について収入認定を行うこととなる。

 

 

 

○生活保護手帳

〔保護費のやり繰りによって生じた預貯金等〕

問(第3の18) 

 生活保護の受給中,既に支給された保護費のやり繰りによって生じた預貯金等が発見された場合は,どのように取り扱ったらよいか?

 

 保護受給中に,何らかの事情により,預貯金等を保有していることが発見された場合については,まず,当該預貯金等が保護開始時に保有していたものではないこと,不正な手段(収入の未申告等)により蓄えられたものではないことを確認すること。当該預貯金等が既に支給された保護費のやり繰りによって生じたものと判断されるときは,当該預貯金等の使用目的を聴取し,その使用目的が生活保護の趣旨目的に反しないと認められる場合については,活用すべき資産には当たらないものとして,保有を容認して差しつかえない

 なお,この場合,当該預貯金等があてられる経費については,保護費の支給又は就労に伴う必要経費控除の必要がないものであること。

 また,保有の認められない物品の購入など使用目的が生活保護の趣旨目的に反すると認められる場合には,最低生活の維持のために活用すべき資産とみなさざるを得ない旨を被保護者に説明した上で,状況に応じて収入認定や要否判定の上で保護の停止又は廃止を行うこと。