【問】生活保護の申請後は,生活保護が決定してないにも関わらず,福祉事務所の指導に従う義務があるのですか。

 

 私は,先日,福祉事務所で生活保護の申請をして,申請書を受理してもらいました。 そのとき,まだ引っ越しが終わっていなかったので,数日後に兄の車を借りて自分で運転し,引っ越しを行う予定でしたので,そのことを担当ケースワーカーに言ったところ,そのケースワーカーから,生活保護の申請後は,車の運転をしないように言われました。

 

 しかし,私は,生活保護の申請をしたばかりで,まだ生活保護の適用が決定してないにもかかわらず,ケースワーカーから,車の運転をしないよう指導を受けることには納得できません。 私は,ケースワーカー(福祉事務所)からの指導に従う義務はあるのでしょうか。

 

 また,私が,生活保護の申請日から決定日までの間に,車の運転をして,それが福祉事務所に見つかったときは,私は,福祉事務所の指導に従わなかったことを理由に,生活保護の申請が却下されることはありますか。

(この【問】は,「コメント管理」の投稿をもとに作成しています。)

 

 

 

【その後の経過・説明】

<このブログの9月21日の記事「生活保護と申請後の義務(№1)」の続き>

 

 この件でコメントをいただいた方の話では,その後,本庁(政令指定都市の場合)厚生労働省へ電話で問い合わせたところ,「引っ越しのために、兄の車を借りて自分で車を運転すること」については差し支えない(車を運転してよい)との回答があったそうです。

 

 つまり,このブログの9月21日の記事「生活保護と申請後の義務」書いたとおり,生活保護法には,「生活保護を受けている人は,自動車の運転をしてはならない。」とは,どこにも書かれてないにもかかわらず,「生活保護を受けている人は,自動車の運転をしてはならない。」と勘違いしているケースワーカーが多い理由は,「生活保護手帳 別冊問答集」の「問3-20 他人名義の自動車利用」に,「自動車の使用は,所有又は借用を問わず原則として認められない。」と書かれているからです。

 

 しかし,この「問3-20 他人名義の自動車利用」をよく読むと,「特段の緊急かつ妥当な理由が無いにもかかわらず,遊興等 単なる利便のため 度々 使用することは,法第60条の趣旨からも,法第27条による指導指示の対象となるものである。」と記されています。

 

 つまり,この文章を逆に読むと,「特段の緊急かつ妥当な理由が無いにもかかわらず,遊興等単なる利便のため度々使用すること」は認められていませんが, 特段の緊急 かつ 妥当な理由があれば,又は 度々 使用するのでなく,年に数回利用するのであれば,他人から自動車を借りて運転することは認められるということになります。

 

 このように,政令指定都市の区役所や 都道府県の出先,規模の小さい市の福祉事務所のケースワーカーは,勉強不足の人が多く,問い合わせても 誤った回答をすることが時々あります。

 そして,間違っても,間違いを認めず,「そんなことは言ってない。 そんな趣旨で言ったものではない(あなたが,私の説明の解釈を間違ったものであり,私は悪くない。)。」と言って,謝りもせずに 言い逃れをし,すぐに保身に走ります。

 

 そのため,福祉事務所に電話で問い合わせたり,福祉事務所でケースワーカー等と面会したりするときは,必ず録音することをお勧めします。 これにより,後で「言った,言わない。」などと揉めたり,ケースワーカーの言い逃れを防ぐことができます。

 すべてのケースワーカーが,勉強不足で いい加減であるとは言いませんが,そういう人が少なからずいますので,自己防衛をする必要があります。

 

 コメントをいただいた方は,本庁と厚生労働省へ電話で問い合わせたとのことですが,録音していると,本庁と厚生労働省へ問い合わせたり,苦情を言うときに,明らかな証拠になります。

 区役所の福祉事務所の対応に疑問があるときは,本庁の生活保護担当課へ,都道府県の出先や 市の福祉事務所の対応に疑問があるときは,都道府県の生活保護担当課へ問い合わせたり,苦情を言えば,福祉事務所の対応に間違いや問題があったときは,福祉事務所に指導してくれます。

 

 それでも,役所の対応に納得できないときは,法テラスを通じて 生活保護制度に詳しい弁護士や,各地の生活保護支援ネットワークなどの生活困窮者支援団体に,福祉事務所に同行してもらうか,又は 福祉事務所に申入れを行うことを相談してみてください。

 

 

(参考)

〇生活保護手帳・別冊問答集

問3-20 他人名義の自動車利用

(問)

 資産の保有とは,所有のみをいうものか。例えば,自動車の保有を認められていない者が,他人名義の自動車を一時借用を理由に遊興等のために使用している場合は,どのようにすべきか。

 

(答)

 生活保護における資産の保有とは,次第3に示してあるとおり,最低生活の内容としてその保有又は利用をいうものであって,その資産について所有権を有する場合だけでなく,所有権が他の者にあっても,その資産を現に占有し,利用することによって,それによる利益を享受する場合も含まれるものである。

 設問の場合には,特段の緊急かつ妥当な理由が無いにもかかわらず,遊興等 単なる利便のため 度々使用すること,法第60条の趣旨からも,法第27条による指導指示の対象となるものである。 これは,最低生活を保障する生活保護制度の運用として国民一般の生活水準,生活感情を考慮すれば,勤労の努力を怠り,遊興のため度々自動車を使用するという生活態度を容認することも,またなお不適当と判断されることによるものである。