【問】生活保護を受けると,生活保護を受ける前に滞納した税金の支払いは,どのようになるのですか。
私は 最近 生活保護を受け始めましたが,生活保護が開始されると,所得税や住民税は課税されないと聞きました。 しかし,私が 生活保護を受ける前に滞納した税金の支払いは,どのようになるのですか。
【答】
インターネットや書籍等で調べると,生活保護を受ける前に滞納した税金については,次のとおり「執行停止」扱い等となり,生活保護受給中は,基本的に請求されることはありません。 執行停止期間が3年間経つと,納入義務は消滅となります。」と記載されていますので,納付について心配しなくてもよいと思います。
また,生活保護を受けると,自宅が持ち家のときは,その固定資産税が免除されますし,国民年金保険料の納付免除,NHK受信料の免除,住民票等の交付手数料の免除(市町村で異なる)を受けることができます。
さらに,国民健康保険には加入できなくなりますので,国民健康保険の資格を喪失し,国民健康保険料を支払う必要がなくなります(医療費は,医療扶助として福祉事務所から病院へ直接支払われます。)。
なお,生活保護を受給しない場合に,自己破産を行っても,税金は免除になりません。
<生活保護受給前に滞納した税金の取扱いについて>
○ 税金の滞納分については,自治体によって多少の対応は違うかもしれませんが,「執行停止」扱い等となり,生活保護受給中は,基本的に請求されることはありません。 執行停止になった滞納税は,いきなり消滅するわけではありませんが,執行停止期間が3年間経つと,納入義務は消滅となります。
○ 生活保護の受給は,地方税法第15条の7第1項第2号の「滞納処分をすることによって,その生活を著しく窮迫させるおそれがあるとき」に該当しますので,滞納処分の執行停止がなされるのが通常です。 執行停止がなされると,新たな滞納処分をすることができなくなり,2号の執行停止をした場合において差押中の財産があれば,差押えを解除しなければならないとされています(同条3項)。
生活保護が廃止になると,「滞納処分をすることによって,その生活を著しく窮迫させるおそれがあるとき」に該当しなくなりますので,執行停止も取消しとなりますが, 生活保護が継続すれば,執行停止も継続し,執行停止が3年継続した場合には,執行停止の対象となった租税は,絶対的に消滅します(同条第4項)。
ただし,3年が経過する前に,税の消滅時効である5年が経過した場合には,時効完成時点で,税は絶対的に消滅します。 債権差押えの場合には,取立ての日の翌日から,差押解除の場合には,解除の日の翌日から,それぞれ時効期間が進行します。
執行停止は,職権でなされるものであり,申立てによってなされるものではありません。
ただし,生活保護の受給によって,ほぼ2号の執行停止がなされるのが通常です。
特に,市町村税の場合には,福祉課(福祉事務所)から税務課への内部連絡によって,税務課は,直ちに生活保護の開始を認識しますし(税務署⾧や県税事務所⾧は,生活保護の開始の有無を市町村に文書照会しますので,その認識は遅くなります。), 生活保護受給者から税を徴収すると,納税資金を提供するため 生活保護費を支給する結果となりますので,直ちに2号の執行停止がなされるのが通常です。
<借金返済ノウハウ>
(住民税の時効はあるが支払う義務あり!滞納したときのリスクを解説)
例外として生活保護受給されて免除になるケースはあります。
滞納したまま生活保護受給が開始され、そこから3年が経過すると滞納分の支払い義務が免除されるのです。 過去の滞納分の支払い義務が免除されるだけでなく、生活保護を受けている間も住民税が免除されるため、住民税の支払いの心配も必要ありません。
もっとも、あくまで「免除」なので、時効による消滅ではない点には注意が必要で、生活保護の受給期間が3年に満たないときは、生活保護を受けなくなった時点で請求されることもあります。
(参考)
<大阪府が 厚生労働省に照会したときの厚生労働省の回答>
〔質問1〕
生活保護制度の被保護者(以下「被保護者」という。)となるまでに賦課された保険料(税)の滞納金(以下「被保護前滞納金」)について、被保護者の同意を得たうえで保険料(税)を徴収することは、生活保護法第57条(公課の禁止)に違反するのか。
違反しない場合において、被保護者の同意のもと徴収することは、生活保護制度には医療保険料に関する扶助がないこと等から、適切でないと考えるが如何か。
[回答](厚生労働省 保険局 国民健康保険課)
生活保護受給者であっても、滞納金を被保護者本人の意思に基づき 任意で支払うことは可能であるが、関係部署と連携して住民個々の状況を踏まえ、適切に対応いただきたい。
〔質問2〕
被保護前滞納金がある被保護者にかかる、地方税法第15条の7第1項第2号(滞納処分の停止の要件等)の適用について次のいずれによるべきか。
① 当該条項に該当するものとし、速やかに滞納処分の停止を行うべき。
② 当該条項に該当する可能性があるものとして、速やかに当該被保護者の生活状況等を把握したうえで、同条項に該当すると認められる場合には、滞納処分の停止を行うべき。
[回答](厚生労働省 保険局 国民健康保険課)
① のとおり、地方税法第15条の7第1項第2号(滞納処分の停止の要件等)に該当するため、速やかに、滞納処分の執行停止をするべきである。
〇地方税法
第15条の7(滞納処分の停止の要件等)
地方団体の⾧は,滞納者につき次の各号の一に該当する事実があると認めるときは,滞納処分の執行を停止することができる。
① 滞納処分をすることができる財産がないとき。
② 滞納処分をすることによってその生活を著しく窮迫させるおそれがあるとき。
③ どの所在及び滞納処分をすることができる財産がともに不明であるとき。
2 地方団体の⾧は,前項の規定により滞納処分の執行を停止したときは,その旨を滞納者に通知しなければならない。
3 地方団体の⾧は,第1項第2号の規定により滞納処分の執行を停止した場合において,その停止に係る地方団体の徴収金について差し押えた財産があるときは,その差押を解除しなければならない。
4 第1項の規定により滞納処分の執行を停止した地方団体の徴収金を納付し,又は納入する義務は,その執行の停止が3年間継続したときは,消滅する。
5 第1項第1号の規定により滞納処分の執行を停止した場合において,その地方団体の徴収金が限定承認に係るものであるときその他その地方団体の徴収金を徴収することができないことが明らかであるときは,地方団体の⾧は,前項の規定にかかわらず,その地方団体の徴収金を納付し,又は納入する義務を直ちに消滅させることができる。
〇国税徴収法基本通達
第153条関係 滞納処分の停止の要件等
(生活の窮迫)
3 国税徴収法第153条第1項第2号の「生活を著しく窮迫させるおそれがあるとき」ときは、滞納者(個人に限る。)の財産につき滞納処分を執行することにより、滞納者が 生活保護法の適用を受けなければ生活を維持できない程度の状態(法第76条第1項第4号に規定する金額で営まれる生活の程度)になるおそれのある場合をいう。
※ 地方税法第15条の7 及び 国税徴収法第153条は、「滞納処分の停止の要件等」を規定している。