【問】親から仕送りは 収入として認定され,生活保護費を減額されるのですか?
私は 生活保護を受けていますが,息子(世帯員)が夏期講習の受講を希望しているものの,その費用の捻出に困り,母親(世帯外)に相談した結果,夏期講習の受講料として2万円の仕送りをしてもらいました。
その後,担当ケースワーカーが,定期訪問の際に 息子の夏期講習の資料に気が付き,その担当者に母親から夏期講習の受講料として2万円を援助してもらったことを話したところ,担当ケースワーカーから,親からの援助金は収入として認定されるので,その分が 生活保護費から減額されると言われました。
しかし,生活保護費から2万円も減らされると,生活費や息子の学費などに困ります。 どのようにしたらよいのか,何かアドバイスがあったらお願いします。
【答】
親・兄弟姉妹等の扶養義務者や 友人などからの金銭的援助は,借金も含めて,原則として収入として認定され,その分が生活保護費から減額されます。
しかし,あなたの場合は,「指定つき援助」として収入として認定されない可能性があると思います。
「指定つき援助」については,厚生労働省の保護課長通知(第8の41)において,「(問)扶養義務者からの援助金は,すべて『他から恵与される金銭』として取り扱うことは認められないか。」という質問に対して,「(答)扶養義務者からの援助金は,その援助が当該扶養義務者について期待すべき扶養の程度をこえ,かつ,当該被保護世帯の自立更生のためにあてるべきことを明示してなされた場合に限り,『自立更生を目的として恵与された金銭』に該当するものとして取り扱って差しつかえない。」とされています。
例えば,沖縄県では,生活保護を受けている人が,賃貸住宅を退去する際に,原状回復経費を請求され,その不足分を子から援助を受けたことについて,福祉事務所が,その子からの援助金を収入として認定し,生活保護法第63条により返還を求めたことに対して,審査請求を行った結果,沖縄県は,その子からの援助金を,請求人に対して恵与された自立更生を目的とした金銭(指定付き援助)と考えられ,収入として認定しない取扱いが適当であったとして,返還処分を取り消したという事例があります(平成25年12月24日,沖縄県知事裁決: 次の参考資料を参照)。
したがって,今回の母親からの援助金については,母親からは 今まで特に金銭的援助が行われておらず,かつ,夏期講習の受講料と指定して援助が行われたものですから,「指定付き援助」に該当し,収入として認定しないという取り扱いが行われる可能性が高いと思います。
福祉事務所のケースワーカーは,「指定付き援助」について知らない人が多く,扶養義務者や友人などからの金銭的援助があったときは,「指定付き援助」の可能性を考慮せずに,すぐに収入として認定したり,返還を求めたりすることが多いので,担当ケースワーカーに対して,今回の母親からの援助金は,「指定付き援助」に該当するのではないかと主張しましょう。
それでもなお,担当ケースワーカーが,あなたの主張を認めないときは,ケースワーカーとの会話を録音し,法テラスを通じて生活保護制度に詳しい弁護士や,各地の生活保護支援ネットワークなどの生活困窮者支援団体に相談し,担当ケースワーカーに説明してもらうか,又は 都道府県知事に対して,「保護変更処分」(仕送りを収入認定し,生活保護費を減額した行政処分),「生活保護法第63条に基づく保護費の返還処分」又は「生活保護法第78条に基づく保護費の徴収処分」の取り消しを求める審査請求を行うことを検討しましょう。
なお,福祉事務所は,「指定付き援助」としても,それを 保護受給前や保護受給中の借金の返済に充てることは認めないと思いますので,注意してください。
(参考)
第8-3
(3) 次に掲げるものは,収入として認定しないこと。
エ 自立更生を目的として恵与される金銭のうち当該被保護世帯の自立更生のためにあてられる額
オ~チ (略)
○厚生労働省 社会・援護局長通知
第8-2 収入として認定しないものの取扱い
(4)自立更生のための恵与金,災害等による補償金,保険金若しくは見舞金,指 導,指示による売却収入 又は死亡による保険金のうち,当該被保護世帯の自立更生のためにあてられることにより収入として認定しない額は,直ちに生業,医療,家屋補修等,自立更生のための用途に供されるものに限ること。
ただし,直ちに生業,医療,家屋補修,就学等にあてられない場合であっても,将来それらにあてることを目的として適当な者に預託されたときは,その預託されている間,これを収入として認定しないものとすること。
また,当該金銭を受領するために必要な交通費等及び補償金等の請求に要する最小限度の費用は,必要経費として控除して差しつかえない。
○厚生等同省 保護課長通知
問〔扶養義務者からの援助金〕(第8の41)
扶養義務者からの援助金は,すべて「他から恵与される金銭」として取り扱うことは認められないか。
答
扶養義務者からの援助金は,その援助が当該扶養義務者について期待すべき扶養の程度をこえ,かつ,当該被保護世帯の自立更生のためにあてるべきことを明示してなされた場合に限り,「自立更生を目的として恵与された金銭」に該当するものとして取り扱って差しつかえない。
○別冊問答集
問8-43 扶養義務者からの指定つき援助
(問)
5人世帯で6畳のバラックに住んでいる被保護世帯に対して,扶養義務者から家屋の拡張工事を指定して援助があった。 検討したところ,これは扶養義務者の扶養の程度を超えている援助金であると認められたので,収入として認定せず,家屋の拡張工事を認めたいがよいか。
また,拡張しない既存の部分で修理を要する箇所がある場合,この部分の修理には家屋補修費を支給することとしてよいか。
(答)
世帯構成等からみて現住居での生活が最低限度の生活を著しく損なうものであると認められ,緊急に増設する必要があり,かつ当該世帯にとってこれが最も効果的な自立助長措置であると判断された場合には,認めて差し支えない。
また,拡張工事と直接関係なく補修を要する箇所がある場合は,家屋支給して差し支えない。
問8-46 扶養義務者からの恵与金
(問)
扶養義務者からの援助金は,その援助が当該扶養義務者について期待すべき扶養の程度を超えて行われる場合には,恵与される金銭として取り扱ってよいとされているが,この場合,恵与される金額に該当するものは次のいずれであるか。
毎月2万円の仕送りをしている扶養義務者に相当の臨時収入があり,被保護世帯の子どもの修学旅行に充てる費用を含めて5万円の仕送りをした場合
(1)毎月の仕送り分2万円は収入として認定し,3万円については期待すべき扶養の程度を超えたものとして修学旅行に要する費用としての自立計画を立てさせる。
(2)扶養義務者に臨時収入があったのであるから,期待すべき扶養の程度を超えているとは認められず,その援助金の全てを収入として認定する。
(答)
(1)により取り扱って差し支えない。
なお,祝金についても,これと同様に考えられる。
<沖縄県知事裁決書>
裁 決 書
審査請求人 〇〇〇〇〇〇
代 理 人 〇〇〇〇〇〇
処 分 庁 〇〇〇〇〇〇
平成25年10月21日付で提起された生活保護法(昭和25年法律第144号)に基づく費用返還決定処分に係る審査請求について次のとおり裁決する。
主 文
〇〇〇〇が,審査請求人に対して行なった平成25年8月26日付の費用返還決定処分を取り消す。
理 由
第1 事案の概要
1 審査請求に至る経緯
〇〇〇〇〇〇(以下「処分庁」という。)は,生活保護法(以下「法」という。)第63条に基づき,平成25年8月26日付で審査請求人〇〇〇〇(以下「請求人」という。)に対して費用返還決定処分(以下「本件処分」という。)を行ったところ,請求人はこれを不服として,平成25年10月21日付で沖縄県知事(以下「当庁」という。)に対し,審査請求を提起した事案である。
2 本件請求の趣旨及び理由
処分庁による本件処分の理由は,生活保護費返還決定通知書によると「契約時において敷金を支払っていない場合には, ① 原状回復につき特約がある場合や ② 真にやむを得ないと認められる範囲であること等を満たしている場合に限るが,主が仲介業者と交わした合意書については法的に有効なものと認められないと考えられ,主は原状回復費用を負担しないでもよいことが充分考えられた。 また,真にやむを得ないかどうか福祉事務所で検討中であった。 しかし,福祉事務所の判断が決まらない間に主の息子により費用の支払いが済まされた,との報告があった。 所の判断を待たずに扶養義務者が負担したことで,その費用については援助されたものとして収入認定を行う必要があり,返還金として取り扱うことになった。」としている。
これに対して,代理人〇〇〇〇及び〇〇〇〇は,審査請求書によると,「本件は,本来,審査請求人が負担すべき原状回復費用を子に負担してもらった事例であり,資力のある状況で保護費を受給した場合とは事情が異なるので あって,そもそも法第63条の適用場面ではない。」等と主張している。
本件審査請求については,処分庁が決定した本件処分に納得がいかず,本件処分の取消を求めるものである。
第2 当庁の認定した事実及び判断
1 認定事実
(1)請求人が居住していた賃貸家屋は,入居及び契約更新に際して敷金の支払いを要さない物件であったこと。
(2)請求人は上記(1)の賃貸家屋の入居契約時に,契約期間中の小修繕,請求人の責めによる破損,汚損等の修理費,電球の取替え等の費用及び退去時の玄関鍵の取替え,クーラー清掃,ハウスクリーニング費用を請求人が負担する旨の賃貸借契約を賃貸人と交わしていること。
(3)請求人が上記(1)の賃貸家屋を退去するに際して,賃貸人から原状回復費として79,928円を請求されたこと。
当該費用の支払いについては25,000円を請求人が保護賀のやり繰りにより支払い,不足額54,928円を請求人の息子が支払ったこと。
従前,請求人の息子を含む扶養義務者らから請求人に対して金銭援助は行われていなかったこと。
※ 原状回復費内訳(合計額 79, 928円)
電球取替え ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 1,008円
玄関鍵の取替え ‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 5,000円
クロス張替え(タバコのヤニの為)‥‥ 36,120円
ハウスクリーニング ‥·‥‥‥‥‥· 31,500円
クーラー清掃 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 6,300円
(4)処分庁は上記(3)の請求人の息子が支払った額54,928円を 法第63条の資力として本件処分を決定したこと。
2 判断
(1)法令等
ア 生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて(昭和38年4月1日社保第34号厚生省社会局保護課長通知。以下「課長通知」という。)第8-41(答)では,扶養義務者からの援助金の収入認定の取扱いについて,「扶養義務者からの援助金はその援助が当該扶養義務者について期待すべき扶養の程度をこえ,かつ,当該被保護世帯の自立更生のためにあてるべきことを明示してなされた場合に限り,「自立更生を目的として恵与された金銭」に該当するものとして取り扱って差しつかえない。」と定めている。
イ 生活保護法による保護の実施要領について(昭和36年4月1日厚生省発社第123号厚生事務次官通知)第8-3-(3)-エでは,「自立更生を目的として恵与される金銭のうち当該被保護世帯の自立更生のためにあてられる額」は収入として認定しない旨を定めている。
ウ 生活保護法による保護の実施要領について(昭和38年4月1日社発第246号厚生省社会局長通知)第8-2-(4)では,収入として認定しないものの取扱いとして,「自立更生のための恵与金,災害等による補償金,保険金若しくは見舞金,指導,指示による売却収入又は死亡による保険金のうち,当該被保護世帯の自立更生のためにあてられることにより収入として認定しない額は,直ちに生業,医療,家屋補修等自立更生のための用途に供されるものに限ること。」と定めている。
エ 課長通知第8-40(答)では,自立更生のための用途に供される額の認定基準として,「当該経費が家屋補修,配電設備又は上下水道設備の新設,住宅扶助相当の用途等にあてられる場合は,生活福祉資金の福祉資金の貸付限度額に相当する額」と定めている。
オ 生活保護問答集について(平成21年3月31日厚生労働省社会 援護局保護課長事務連絡)問7-117では,賃貸家屋からの転出にあたり原状回復費用の請求を受けた場合の取扱いについて,契約時において敷金を支払っておらず,転出時に原状回復費用を請求された場合については,(1) 原状回復につき特約があること, (2) 原状回復の範囲が,社会通念上,真にやむを得ないと認められる範囲であること, (3) 故意 重過失により毀損した部分の修繕ではないこと,のいずれにも該当する場合に限り,必要最小限度の額を住宅維持費として認定し差し支えない旨を定めている。
(2)本件処分について
扶養義務者からの援助金については,その援助が当該扶養義務者について期待すべき扶養の程度を超えて行われるような場合には,自立更生を目的として恵与された金銭として取り扱ってよいこととされており(法令等ア), また,恵与された金銭の使途が,家屋補修といった用途にあてられるような場合には,一定の範囲内において収入として認定しないこととされている(法令等イ,ウ,エ,オ)。
これを本件事案についてみると,従前,請求人の息子は請求人に対して金銭援助を行っておらず,また,請求人の息子が支払った金銭は,生活福祉資金の福祉資金の貸付限度額の範囲内であり,請求人の賃貸家屋転出にかかる原状回復費用といった住宅扶助相当の用途にあてられていることが認められることから(認定事実(3)),当該金銭は,請求人に対して恵与された自立更生を目的とした金銭と考えられ,収入として認定しない取扱いが適当であったと考える。
よって,収入ではない金銭を法第63条の資力として取り扱った処分庁の判断には瑕疵が認められることから,本件処分を取り消すことが相当と判断する。
3 結論
以上のとおり,本件審査請求は理由があるので,行政不服審査法(昭和37年法律第160号)第40条第3項の規定を適用して,主文のとおり裁決する。
平成25年12月24日
沖縄県知事 仲井眞 弘多