【問】役所の担当者のミスで 生活保護費の支給漏れがあったときは,2か月分前までしか さかのぼって追加支給してもらえないのですか?

 私は,生活保護を受給しており,役所には収入をきちんと申告していましたが,役所の担当者のミスで,1年間,生活保護費が少なく支給していたことが分かりました。 友人に相談すると,以前に同様のことがあったが,そのときは,発見月の前々月分までしか遡って生活保護費を追加支給してもらえなかったと言われました。

 しかし,私には何の過失もなく,役所の担当者のミスにより,1年間,生活保護費が少なく支給されていたにもかかわらず,発見月の前々月分までしか さかのぼって生活保護費が追加支給されないのは,おかしいと思いますが,本当に発見月の前々月分までしか追加支給されないのでしょうか。

 

 

【答】

 役所の担当者のミスにより,生活保護費が少なく支給されることは,時々見られます。

 あなたに何の過失もなく,役所の担当者のミスにより,1年間,生活保護費が少なく支給されていたにもかかわらず,発見月の前々月分までしか さかのぼって生活保護費が追加支給されないのは,私もおかしいと思います。

 

  確かに令和2年3月までは,「生活保護手帳・別冊問答集」問13-2の規定により,発見月の前々月分までしか さかのぼって生活保護費が追加支給されていませんでしたが, 令和2年4月に「生活保護手帳・別冊問答集」問13-2の規定が改正され,ただし書き部分(アンダーライン部分)が追加されましたので,令和2年4月1日からは,最低生活費の認定変更が適切に行われなかったことについて,受給者に何ら過失がないなどの受給者に帰責する事由がなく,かつ,保護の実施機関において認定を誤ったことが明らかな場合については,発見月から前5年間を限度として追加支給が行われることになりました。

 なお,この場合,5年間を限度とした理由は,5年を超える分については,5年の時効により権利が消滅しているとされているためです。

 

 しかし,反対に,役所の担当者のミスにより,生活保護費が多く支給されたときは,残念ながら未だに,5年を限度として さかのぼって,多く支給された生活保護費の返還を求められる状況です。 この問題については,近いうちにこのブログに載せる予定ですが,役所の担当者のミスにより,生活保護費が多く支給された場合に,その過払分の全額返還を求めた行政処分に対して,取消訴訟が起こされ,原告(生活保護受給者)が勝訴し,過払分の全額返還を求めた行政処分が取り消された判例もあります。 詳しくは,後日,このブログに掲載します。

 

 

 

(参考)

生活保護手帳・別冊問答集

〇問13-2 扶助費の遡及支給の限度及び戻入,返還の例

(問)

 次に示す場合について,扶助費の戻入,返還等の取扱いを教示されたい。

(a)世帯員の転入等の事実が明らかとなったため,既に扶助費を支給した月の最低生活費の額を増額して認定する必要が生じたとき。

(b)~(e)  (略)

 

(答)

1 扶助費追加支給の限度

(a)の場合,どの範囲まで最低生活費の認定を事後変更していわゆる追給の措置をとるべきかが問題となる。 本来,転入その他最低生活費の認定変更を必要とするような事項については,収入申告と同様,受給者に届出の義務が課せられているところでもあるし,また,一旦決定された行政処分をいつまでも不確定にしておくことは妥当でないので,最低生活費の遡及変更は3か月程度(発見月からその前々月分まで)と考えるべきであろう。

 これは,行政処分について不服申立期間が一般に3か月とされているところからも支持される考えであるが,3か月を超えて遡及する期間の最低生活費を追加支給することは,生活保護の扶助費を生活困窮に直接的に対処する給付として考える限り妥当でないということも理由のひとつである。

 ただし,最低生活費の認定変更が適切に行われなかったことについて,受給者に何ら過失がないなどの受給者に帰責する事由がなく,かつ,保護の実施機関において認定を誤ったことが明らかな場合は,発見月から前5年間を限度として追加支給して差しつかえないその場合,真にやむを得ない事情から追加支給を行うことを踏まえ,追加支給された扶助費が被保護世帯の自立更生のためにあてるよう助言指導すること。

 なお,被保護世帯の自立更生のためにあてられる費用であれば,直ちに自立更生のための用途に供されるものに限るものではないので留意されたい一方で,使用目的が保有の認められない物品の購入や贈与等により当該世帯以外のためにあてるなど,自立更生のためにあてられない場合については,収入認定することとなるが,収入認定を行うにあたっては,機械的に収入認定を行って保護を停廃止するのではなく,状況に応じて収入認定額の一部を翌月以降に分割して認定して差しつかえない

 (上記のアンダーライン部分は,令和2年度に追加)

 (以下,略)