#0008:資金はあれど、実体経済に出回らない日本
■昨年12月の政策に合わせた日銀追加緊急緩和策
2010年1月31日(日)の日経新聞朝刊では、「「量的緩和」でもマネー回らず」という題の記事を掲載した。
景気が下降線を辿らない兆候が現れ始めているように見える一方で、実体経済が資金を必要していない様子が書かれている。
2009年12月1日、日銀は、国債などを担保に固定金利0.1%で資金を3ヶ月間融資する新型オペによる、規模10兆円の追加金融緩和を発表した。その結果、金融機関の手元資金総量である「日銀当座預金残高」は量的緩和以前の2002年の水準にまで戻っていることが、この記事では書かれている。
[2010年1月31日 日経新聞朝刊]
■1月末には金融機関の資金需要はほぼ充足、ときに余剰供給
1月29日の日経新聞朝刊に掲載されたグラフでは、すでに日銀の資金供給に対して、札割れが生じているグラフが掲載されていた。金融機関には十分な手元資金がいきわたった模様である。
[2010年1月29日 日経新聞朝刊]
それとともに、1月29日の記事では、短期金融市場で多くの取引金利が0.1%に接近したことが報じられた。銀行の貸出金利が日銀からの調達金利とほぼ一致している。資金需要に十分に応えられる資金が金融機関にだぶついてしまっているため、貸出金利が低空飛行を続けていると考えられる(1月末よりやや改善したが、2月現在もこの傾向が継続している)。
■市場では資金需要がますます縮小
では、実体経済である市場にはどのように資金が出回っているのだろうか。
1月23日には、09年12月の通貨流通量が前年同月比で0.65%減少し、3ヶ月連続の減少となったことが報じられた。3ヶ月連続の減少は、1972年以降初めてとのことだ。追加量的緩和が行われ、銀行まで資金は来ているが、実体経済である市場は資金を必要としていないため、通貨の流通残高が伸びていない。特に家計において、伸びていないことを1月23日の記事は述べている。
[2010年1月23日 日経新聞朝刊]
銀行の貸出状況も確認してみよう。日銀の銀行分の「預金・貸出統計」データを使って、貸出残高とその増減をグラフにすると以下のようになる。
90年代後半からは、直接金融への移行から銀行の貸出が減っていく様子が見える。
しかしリーマンショックが発生した2008年11月から2009年5月までは、毎月3%以上の伸びで貸出が増加している。金融危機に対応した資金供給が積極的に行われ、企業もそれを活用したのだ。2008年12月~2009年1月をピークに、伸び率は鈍化し始める。直接金融での社債発行などで企業が財務体質の改善に向かった時期でもあり、その反映も考えられる。
問題は2009年12月以降である。追加金融緩和があったにもかかわらず、2009年12月は前年同月比-1.2%, 2010年1月には-1.7%と減少に転じてしまっている。
■もはや資金の供給では効果無し?
昨年の12月1日の日銀追加金融緩和に対して、経済同友会は「すでに極めて緩和的である金融環境を鑑みれば、金融政策の効果には限界がある。鳩山政権には、日本銀行による金融緩和政策と歩調を合わせ、規制改革等の民間企業の事業活動を促すような政策の実施を求める」とのコメントを出していた。
2月16日の衆院予算委員会では、「1%のインフレ目標を設定し、それを1~1.5年間で達成するための追加金融緩和を日銀に迫る」べき議論が行われた模様である。前日の2009年10~12月期のGDP発表で、GDPデフレーターが前年同期比マイナス3.0%となったことを受けてのデフレ対策なのだろう。
しかしこの状況をみると、さらなる金融緩和が果たしてデフレをコントロールできるレベルにあるのだろうか。