術後2日目、体力がやや戻ってきた。
起き上がって鏡を見ると、首には横一文字にスパっと切れ目が入り、縦に縫い糸がある。
股間のホースの一本は壁の機械につながっているので、僕の行動半径はホースの長さ分しかない。
ラジコンになった気分だ。鎖につながれた犬はこんな気持ちなのかもしれない。

朝、看護婦さんが僕が食べ残したトーストを池に向かって投げ込んでいた。
何をしてるの?と質問すると、魚が食べにきておもしろい、のだそうだ。
病室の高さは3-4階程度、池までの距離は軽く10mくらいありそうだが、みごとなスローイングで投げ込む。

午前中の先生の回診の時に、動き回って良いか聞いてみる。激しくなければ良い、と許可をもらった。

一人になるとさっそく散策にでかけることにした。
衛生放送のランボーを何度も観たし、じっとしていることに飽きてしまったのだ。

まず、壁の機械につながっているホースをはずし、クルクル巻いて上着のポッケに入れる。
もちろん反対側は股間につながっている。

尿の入ったパックを片手に持って、スカートの下からは2本のホースを引きずるようにして、ややがに股で歩く姿はきっと滑稽に見えたと思う。

僕はカフェテリアに行って、オープンテラスのテーブルでコーラを飲んだ。
ジーっと焼けるような外気温、ジットリする湿度が病室の空調の空気よりも気持ちよかった。
先生に見つかって怒られたが、周囲の景色を見ながら吸ったタバコはとても美味しかった。

2回目の手術で皮膚移植をすると、5日間は完全に禁煙しなければいけない。
1日3箱のヘビースモーカーの僕にはかなりきつい。
完全禁煙のその日にむけて、少しずつでもタバコを減らさないといけない、と思いつつ、今のうちに吸っておこうとまた別のタバコに火をつける。