構想二十日。すべてはこの日のために。
あのモチカリと、行けども行けども
小麦小麦小麦小麦な
妙なる風味が頭から離れなかった。片時も。
そうだ浅草行こう。田原町行こう。でも
その前にやるべきことがあった。
現時点最強、アラジングラファイトトースター。国内ブランドの
トースターってモタクサと着いたり消えたり、で歯痒いんだよ。
なかなか焼けない。これは僅か0.2秒で発熱し、遠赤グラファイトの
力で一気に焼き上げる超短距離型の、話の早いヤツ。上から水を
入れてスチームで焼くヤツもあるが、電熱器に水は朧気に不安だし
カビとかも。何より高いし。それを買うならオレはもっと美味いパンを
もっと頻繁に、もっと気兼ねなく二枚目三枚目を齧り頬張りたいや。
つうわけでご予算半分以下でアラジン採用決定。で使い始めたが
なかなかにこれは乗りこなすのがむずかしいマシーンで、もう少しだけ
焼き色を…から「焦げすぎ」までのタイミングが異様にナローかつタイト。
絶妙な焼き色と理想的な含水率のわずかな接点を射貫くには少しばかり
場数を踏むことが必要。でももう大丈夫。経験値なら積みに積んだ。
改めて。そうだ浅草行こう。ペリカン行こう。

食パン一斤半仕留めに行くのに高速代往復3000円越えとか、流石に
オレもそこまで婆娑羅かに生きられないので、通勤渋滞の下道を
亀のように。朝8時の口開けを目指して。まあ前日に予約したからさ
焦る必要もなし。すべては美味いトーストのために。浅草好きだが
今日ばかりは雷門も仲見世も芋羊羹も天丼ももうどうでもよく
まあ8時前だし。
行列必至だの、予約しなければ買えないだの前情報はやたら敷居が高いが
実際は先客3名が開店待ち。簡素なレジカウンターとサイドの壁面棚に
予約分とフリー販売分の食パンがみっちり。あわよくばロールパンも、と
画策してたが1時半焼き上がりらしい。あ、ここは菓子パン調理パンの類は
一切なし。カンパーニュもバゲットもなし。角食と山形とロール系が少々。
どこまでも小麦なてやんでえ感が半端なく質実剛健で潔い。
1.5斤。570円。高くも安くもないあるべき値段。

手にすればその重量感にたじろぐはず。生地量イコールパンの価値
ではないが、なんていうか荘厳な重さ。しかもまだほの温いその耳の下には
命を宿しているのでは、とさえ。生のをむしってちぎって頬張りながら
帰りたい衝動に駆られるが、それをやったら1.5斤を喰い滅ぼしてしまうな
きっと。家ではアラジンが身を震わせて御神体の入庫を待っているはず。
一流のトースト家に
なりたいか?自分で自分を問い詰める。なりてえだ!
褒美じゃ。

絶叫と書いたがほんとうは無言と静寂。シャクシャクシャクシャク…
炭化した小麦とインサイドモイストな小麦が奏でるシンフォニー。
脳が果てる。ペリカン、スプリーム。