さてキメようか今夜。
1976年、もう花もとっくに枯れたサンフランシスコ。
栄華をきわめたビル・グラハムのオンボロ劇場で。
感謝祭の夜。ワルツと、七面鳥のディナーと、一人の
アメリカ人と四人のカナダ人、哲学者のような彼らには
ちょっと似つかわしくない荘厳な『椿姫』の舞台装置。
ディラン、ニール・ヤング、クラプトン
マディ・ウォーターズ
ドクター・ジョン、ロニー・ホーキンス、ロン・ウッド
ジョニ・ミッチェル、ポール・バターフィールド
ヴァン・モリソン、リンゴ・スター…
かわるがわる花を添える絢爛なゲストとの共演と
彼ら自身の終焉を、絵コンテまで用意して焼きつけた
マーティン・スコセッシの躁病質と、たかだか
ライブドキュメンタリーに駆り出されたキャメラマンが
ヴィルモス・ジグモンド、ラズロ・コヴァックス
ヒロ・ナリタ、マイケル・チャップマンら、こちらが
卒倒してしまいそうな、アメリカン・ニュー・シネマの
伝説のキャメラマンたち。何度観ても映画として
素晴らしい。

この幽玄なタイトルバック。これがスコセッシング。
僕にはこれが映画史上もっとも美しいタイトルバックだ。
狙って撮れるか?狙ってたんだろうけど。ロビー。



ライブ映像やプロモーションフィルムの教科書であるが
以後四十年間、どれひとつこれを越えていない。それはそう。
スコセッシだもの。
ベルエアの自宅に籠り、ロビーとフィルムの編集を行っていた
スコセッシは息抜きに大音量のピストルズを聴き狂っては
クスリをキメてたって話。それをタブロイド紙にスクープされ
怒りに震えたスコセッシが「弁護士に電話だ!」と息巻いて
手にとった電話のコードは、スコセッシ自身がぶった切ってた。
じつに信じるに値するエピソードじゃん。
駄目に駄目を押すアウトロ。




弩級の蔵出し映像がYouTubeに。ただの記録用なのか
ロングショットでステージを捉えたフルレングスの
モノクロ映像。驚愕。ご丁寧に終演後のビル・グラハムによる
ゲストへの謝辞まで。動いてるビル・グラハム初めて見た。