僕の奥さんは私利私欲の
とても薄い人で
ひとがチャーシューメンを
食べている横から
自分の、ただのラーメンから
チャーシューをせっせと
横流ししてくれる徳の高さ。
それはチャーシューにかぎったことではなく
あらゆる場面でさまざまなかたちで
やられるので誰も彼もが口を揃えて云うんです。
ひたすら分かち与える出来すぎた妻と、
闇雲に欲しがる馬鹿すぎる亭主だ、と。白と黒。
まあ概ね正解。
どチンピラ呼ばわりは甘んじて受け入れるとして
でも都合のいい女みたいな、ただ黙って
そこにいる、チャーハンが上手く作れるだけの女でも
ない。彼女のチャーハンは海老と卵、味は
塩と味の素のみ。それ以上でもそれ以下でも、飯店系の
味から遠ざかるのだと云う。わかってないよで。
全部わかってる。でも冷凍のむき海老をきらした日は
猫たちのカニカマとハムで作る。彼女はこれを
「チャーハンカニハム」と呼ぶ。ハングルの感謝の意と
ドイツ語の性戯が、脳で乱れ飛ぶような無軌道な
ネーミングだ。稀にうまいチャーシューがあると、これが
「チャーシューカニハム」となる。なんかそれ
ハンニバル・レクターじゃん。『羊たちの沈黙』の。
しかも本体をあらわす呼び名すらぶっちぎった。
いつもは何も欲さず、従順なカピバラのようでいて
時々そうやって脳を揺らす。正体がわからない。
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