セメント積んだ 倉庫のかげで
ひざをかかえる
あなたは急に幼い
だから短い キスをあげるよ
それは失くした 写真にするみたいに
もうそれ以上 もうそれ以上
やさしくなんて しなくていいのよ
いつでも強がる姿 好きだから
ほら云わんこっちゃ。
ナギは、サクからいちどもストレートな
気持ちを伝えられたことがない。サクのほうから
逢おうと云ってきたことすら数えるほどで
それをナギは自分がたいして好かれてないから
と諦めてもいるが、まあ嫌われてないだけマシと
自分に云い聞かせてもいる。実際はどうだった?
きっとそれは慎みがない、はしたないと信じてた?
なわりにサクは楽しむことには貪欲で奔放で。
「足りないならもう一皿頼めばいいよ」サクの口癖。
ナギはそれを聞くたび、くだらない常識や因襲の
鎖から自分が解き放たれ、空を舞うような気分になる。
サクこそが自分の自由さの結晶なのだ。
ずっと求めていた。でもサクは、ことナギに関しては
戒めを解くことはなかった。サクの問いかけや
懇願は悉く受け流された。柳のように、と喩えるには
あまりにぎこちない冷笑や沈黙で。「嫌われた?」
ナギは疑問符と畏れとでいつも溺れてしまいそうだった。
「それは誤解よ」でも誤解を紐解いてみせることすら。
結局サクは何回目かの冬に、熱のこもらない押し問答は
もう厭きちゃったの、おまえが重荷なのと云うかわり
「優しくはない。でも意地悪でもない」謎中の謎を
置き手紙に消息を絶った。サク最後まで自由でありつづけ
哀れナギ今もテーブルに載りきらない注文を繰り返す。
ブレインストーム。ユーミンのくれる酩酊。
知覚伝達。なかったことがあった風に。
ならばユーミン。あったこともなかった風に。
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