『夢で逢えたら』は
吉田美奈子の代表作じゃない。
彼女にはもっと、聴くものを置き去りに
するような冷酷さと、それでいて気まぐれに
隣に来て、不意に愛をささやくような奔放さとを
物凄いスピードで行き来する、必殺一撃の切り札が
いくつもある。恐ろしく研ぎ澄まされたカード。
マーチンの、ラッツの
カバーはいい。元々シャネルズは大瀧詠一が
魂を吹き込んだ'モンスター'だ。だけど美奈子の
オリジナルは、アルバムでもベスト盤でもいつも
居心地が悪そうに浮いている。
だけど時々、数ヶ月にいっぺんぐらい。
この歌に足をとられ、藤鼠色の甘い夢のなかで
溺れている自分がいて、こちらを見て悪戯に笑みを
浮かべる女が。
夢でもし 逢えたら 素敵なことね
あなたに逢えるまで 眠り続けたい
あなたは わたしから 遠く離れているけど
逢いたくなったら まぶたをとじるの
夢でもし 逢えたら 素敵なことね
あなたに逢えるまで 眠り続けたい
うすむらさき色した 深い眠りに落ち込み
わたしは 駆け出して あなたを探してる
夢でもし 逢えたら 素敵なことね
あなたに逢えるまで 眠り続けたい
春風そよそよ 右のほほをなで
あなたは私の もとへかけてくる
夢でもし 逢えたら 素敵なことね
あなたに逢えるまで 眠り続けたい
いまも私 枕かかえて 眠っているの
もしも もしも 逢えたなら その時は
力いっぱい私を 抱きしめてね (お願い)
夢でもし 逢えたら 素敵なことね
あなたに逢えるまで 眠り続けたい
また。不意討ちだ。
高鳴る胸の鼓動のようなバスドラムに
導かれ、鳴りやまないカスタネットはさ
もどかしげに触れあう指と指。コーダを自由に
さまよう、美奈子のスキャットは空を切った
行き場のない言霊。うわ。いたたまれねえ。
この歌はキライだ。今夜も藤鼠色の夢に沈む。
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