与那国島 防衛省は26日、日本の最西端にある沖縄県与那国島上空を分断する形で設定されている防空識別圏を、同島沖の台湾側洋上に広げる形で設定し直す方針を明らかにした。6月中の省訓令改正へ作業を進めており、台湾には外交ルートを通じて説明した。
 台湾は同島周辺を防空識別圏から事実上除外しており、政府は理解を得られるとみている。
 現行の防空識別圏は、沖縄復帰前に米軍が与那国島の真上を通る東経123度に設定したものを踏襲。沖縄県側がかねて見直しを求めており、鳩山由紀夫首相が23日に同県を訪問した際に「早急に見直す」と表明していた。
 防空識別圏は各国が領空侵犯に備えるため領空の外側に設ける空域で、通報なく侵入した場合は迎撃戦闘機の緊急発進(スクランブル)の対象となる。(MSN産経ニュース引用)



我が国の場合、ADIZ(防空識別圏)は、防衛庁訓令を法の根源としています。
ADIZはあくまで識別圏であって、自衛隊の行動範囲や日本の主権の及ぶ領域を表すものではありません。つまり、この識別圏内を飛行する全ての飛行物体については、味方機(フレンドリー)なのか、敵機(ホスタイル)なのか、あるいは彼我不明機(アンノウン)なのかを航空自衛隊は識別しますという領域を設定しているに過ぎないのです。基本的にADIZの殆んどの範囲は公海上空なのですから、どの国にも自由航行権がありますし、他国にとやかく言われる筋合いはないエリアなのです。
しかし、平成11年に起きた「能登沖不審船事件」の時もそうでしたが、海上警備行動が発令された中において「防空識別圏を出たので追跡を辞めた」というような、誤解を与えるような報道がなされました。今回も上記の記事のように、産経すら誤解しています。ADIZに通報なく侵入したからと言って緊急発進(スクランブル)の対象となるわけではありません。先任管制官が緊急発信を下令するか否かは、総合的な情報から、「領空防護の必要性」に基づいて判断されるのです。しかも、相手国が勝手に決めているADIZに侵入するのですから、別に許可など必要ないのです。(そのような法的義務はどこにも存在しません。)侵入の許可を必要とするのは、相手国の主権が及ぶ領空に侵入する場合です。しかし、例え公海上であるからと言って、許可なく領空に近づけば間違いなく要撃機による防空行動の対象となりますので、「公海上空だから問題ないだろう!」という飛行活動は、相手国の防空体制を強く刺激するので賢明とはいえません。
(我が国の領土である与那国島の西半分がADIZに含まれていないというのは、普通に考えておかしくはありますが、かといって別に識別ができないという訳ではないので、運用上の問題は特にないのです。)

さて、「学べば学ぶほど抑止力が解った」と仰せの我が首相が、付け焼き刃の軍事知識でADIZに触れるとは到底思えません。新聞報道によれば、沖縄再訪問の際に仲井間知事より「与那国島の防空識別圏の正常化」を要求されたようです。とすれば、防衛問題で全く成果の出せない現政権が参議院選挙前に、なんとかポイントを稼ぎたい気持ちの表れのような気もしてきます。しかし、やはり付け焼き刃の防衛知識の域を出ていないのが残念です…

鳩山首相、国民目線も大切ですが、自衛隊最高指揮官として、もう少し部下である制服自衛官の意見具申にも耳を傾けられてはいかがでしょうか?
この手のレベルの話ならば、航空自衛隊幹部ならば常識ですから…。アセットとしてではなく、信頼に足る臣官としての待遇を期待します。