松下政経塾の研修内容の一つに茶道があります。これは、故松下幸之助翁が、14代目家元淡々斎(現家元:16代目坐忘斎)と深い交流があり、国家リーダーであれば、日本の伝統文化である茶道をある程度たしなむ事ができなければならないという理由からです。

幸之助翁がまだ三十代の頃、当時関西の経済界でメキメキと頭角を表していた松下幸之助は、さる財界人の主宰する茶会に招待されます。そこで、「最近勢いのある若手の松下はんに、御正客に座ってもらいましょ」と勧められますが、何の知識もない幸之助翁はまともな対応ができません。そこで、「経済人も金稼ぎが上手なだけではあきまへん。ぜひ茶道をおやりなはれ」という先輩の勧めで始めたのが、茶道裏千家との親交の始まりです。淡々斎がお亡くなりになった時は真っ先に駆けつけ、「何故先に行ってしまうんや」と大変嘆かれたという逸話も残っております。

茶道は、政経塾一年目のカリキュラムで、一年かけて「薄茶運び点前」ができるまでになります。その集大成は、年度末の裏千家宗家研修です。茶道の世界には、各地域で茶道を教える教授の上に、「業躰部」といわれる家元直属の御弟子さん方がいます。千家の格式と伝統を正確に後世に守り継いでいくための中枢部です。普段は業躰部が素人に教授することなどまずありません。業躰部の先生方からご教授いただけるのは、各地で教えている教授クラスのみ叫びですから、政経塾の塾生(素人)が、宗家にて業躰先生からご教授をいただくなどというのは、まさに豚に真珠・猫に小判…茶道関係者が聞いたら垂涎の破格の待遇なのです。

今回は、御家元に公認のご挨拶に伺ったのですが、残念ながらお勤めで御不在でした。その代わりと言っては何ですが、以前お世話になった町田業躰先生、中西業躰先生にご挨拶でき、とても嬉しく想いました。茶室には「松風隔世俗」の掛け軸。まさに世俗から隔たれた静寂の空間にて、松風(釜の煮える音)を聞いていると、心が落ち着き解き放たれるような気が致します。後輩の立ててくれた一杯のお抹茶を美味しくいただきながら、心を沈めることができた一時でした。

$ことら大尉のハート録!
(お世話になっている私のお茶の師、加藤宗陽先生と今日庵前にて)