結城秀康に関する小説「家康の子」を読みました。前半は人質に出される子の苦しみ、出した側の苦しみがよく書かれており、後半は(結城家でうまがいっていることもあり)さわやかな読後感でした。 

 


家康の子 (中公文庫)
家康の子 (中公文庫)
821円
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「崩れた顔を隠して家康に会って怒られた」逸話を省いていることもすっきり読めた原因の一つかもしれません。関ケ原以後家康が子煩悩を表に出せるようになったのも、人質に苦しむ必要がなくなったからかもしれないと素直に思えるそんな小説でした。

 

もう一冊読んだのは「女にこそあれ次郎法師」なのですが、こちらの方は歴史の解説が多いこと、いまいち主人公の影が薄いことから いまひとつでした。新野親矩が井伊谷に常駐していたり、引馬城攻めが全然書かれていなかったり、松下清景の影が更に薄い上に頭陀寺松下氏の一族と紹介されていたりしていて好みのポイントから外れていたせいかもしれません。いきなり(時代が合わない)南蛮胴が出てきたりするのも、興ざめです。よくわかっていなくてストーリーに関係ないところは、省いてしまえばいいのに。

 

この点からみると、菊池寛の「三浦右衛門の最後」は、「時代考証が全く間違っていてどこから手をつけていいのかわからないレベル」なのに小説としては 情景も場面描写も残酷さの描写も優れていて、一流を感じさせます。一体浅井了意が何を書いていて菊池寛がこういう理解をしたのかはなぞですが。