春の夢想
慌ただしい日を過ごすうちに、春がいつの間にかもう緑の季節へと移行しつつある。桜は散ってしまって、もうサツキが咲き出した。
春になったらやってみたいと思っていたことがあったのだけれど、今年も果たせぬまま、またしても春に置いてけぼりを食ってしまったようだ。
やってみたいことと言うのは実はツクシ摘みである。
ぽかぽかと暖かな陽光の下、やっと萌え始めた野原に出かけ、ツクシをひと抱えも摘んできて、味噌汁や佃煮を作ってそれを肴に一杯やってみたいものだ、と言うのが冬越し中のわたしの春待つ気分の象徴のようなものであったのだ。
しかしながら、春を迎える時期というのは私的にも社会的にも忙しく、ツクシの時期などは多忙に紛れてあっという間に過ぎ去っていってしまうのが毎年の習いとなってしまっているので、何年も願望だけで実現したことはない。
ところが、そんなささいなことでも何回も繰り返していると、つまらない気分的な淡い願望がいつの間にか積年の課題というか宿願のようになってきてしまうらしい。まるで、年取った猫が妖怪猫又になってしまうようなものだろうか。
きっとそのせいなのだろう、今年はツクシを逃したのがことさら悔しいのである。
また来年まで待つしかないのではあるけれど、来年もツクシ摘みができる保証もない。もう青々と茂ってきたスギナを植木鉢に移植しておけば、来年の春にはプライベートつくしの原となって、窓辺でつくし摘みができるだろうかな。
窓からどこかなまめかしい春宵の空を眺め、たわいもない空想にふけっている。
