食欲の 秋に飲みたい 田舎屋の 匂い芳し 名産ビール
このところ日本でもベルギービールが人気らしいが、これについては妙な思い出がひっかかって、どうもブームに乗る気にはなれないものがある。。。
実はヨーロッパ出張の折A君と男二人、地ビールで有名なベルギーの田舎のルーゼンターゲ村に立ち寄ったときのことだ。 様々な種類のビールをさんざん飲んだところで、地元のオヤジに、ところで一番の名物のビールは何かと尋ねると、オヤジは待ってましたとばかりに、それなら「うまやのビール」というのが有名だからぜひこれを飲んで行けと勧められた。
「いや、あんたらはついてる。いつもは客が多くてめったにのめるもんじゃないんだが、今日はたまたま客がいないんだよ」
なんでも幻のビールとまで呼ばれていると聞けば、ビール党として意地汚さが炸裂、飲む気モード200%で別棟に向かったのだった。
そこは本当に馬小屋のようなところで、同じ屋根の向こうには痩せた老馬がつながれてよぼよぼ震えて立っていた。そこでおやじが言った。
「昔ながらの田舎の百姓屋仕立てに作ってあるのさ」
私たちはなるほど凝ったつくりだと感心した。やがて、ビールが運ばれてきたが、ここのビールは日本のようにキンキンに冷やすことはない。たいてい常温かぬる燗で出される。炭酸も人工的に加えることはしないから、過剰な泡もない。 なるほどこれが幻のビールかあ、なるほど伝統的なスタイルだと、さっそく黄色い液体を口にすると
なんだかわらを煮たような臭いがした。そのとき、向こうにいた老馬が、いきなり小便をした。
「・・・ちょっとクラシックスタイルの演出も過剰なくらいだよな・・」
私らはぶつぶつ言いながらも生ぬるい幻のビールを干したが、すっかり酔っ払った後のためかなんとも微妙な味だった。 するとオヤジがまたうれしそうに言った。
「せっかくはるばる来たんだからだからたくさん飲んでくれよ、2杯目からはオレのおごりだ」
それはいい、とオヤジのススメで私らは2杯目を口にすると、「ジョョウワッ」と、また老馬が小便をした。こうして私らはすすめられるままに、老馬がつくる黄色の尿溜りの泡を眺めながら奇妙なぬるいビールを何杯もあけたのだった。
その後私たちはそれまで経験したこともないひどい悪酔いに見舞われて、荷車で運ばれるという醜態を演じてしまったのだが、単に飲みすぎとは思えないあの悪酔いは、異国の環境にストレスを感じたためだったのだろうか、うまやの演出が現代日本人にはきつすぎたためなのだろうか、それともあのビールというのはオヤジのきついいたずらで実は・・・ いや、まさか、まさかねえ。。。
以来、私らはさんざん酔った後にまでさらに意地汚くさらに酒をあおるのは堅く戒めているのである。
それにしても変な味のビールではあった。
(注: 写真はイメージ映像で私とも本文とも何の関係もありません)