九月の遠雷
残暑続く日々、蒸し暑さの只中にあって、夕時の風呂は
だるく粘りを生じたような身体をさっぱりと引き締めなおし、
それこそまさに生き返る心地がする。
先日も湯あがりのほてった体に涼を求め、掃きだしの窓のそばに足を投げ出して
暗くなった空を眺めていると、どこかまだ遠い雷が、
時折雲間に紫の閃光を走らせていた。
じわり近づく気配をみせる雷鳴が空気を震わせるようになると、
反対に虫の声は遠のき、暮れ時の梢の上を飛び回っていた蝙蝠は
あわてて帰っていくのだったが、
私は稲妻が全天を光らせる度にモノトーンに沈んでいた世界に
一瞬色が戻るのが面白くて、雷雲とその下の景色をずっと眺めていた。
やがてボツボツと大粒の雨が降り出して、ようやく窓を閉めたのだけれど
結局、雷はそれ以上近づいてくることはなく、
間欠的に稲光を発しながらそのまま遠ざかって、
夕立の雷雨は尻すぼみに終わってしまった。
「・・終わっちまった。」
これはちょっと拍子抜けだったが、
終わってしまうのは夕立だけではなく、
夕立を伴った夏もまたこうして去って行ってしまうことを思い、
私はまだしばらく 窓辺で遠い雷を見送ったのだった。
