暁の妖術武芸帖 | 酒とホラの日々。

暁の妖術武芸帖


このところ毎日猛烈にねむい。
でもたぶん睡眠時間はだいたい足りている。 眠けの原因とは花粉症の薬で、いつでもどこでも眠くなるのだけれど、特に体は眠け信号を出していないから、疲れて睡眠が足りなくて眠いというものとは異質な眠さである。だから乗り物で座って寝てしまうときなど、誘拐されて薬で眠らされて、敵スパイのアジトに運ばれていく俺はああスパイ映画のヒーローで、きっとそれはこんな感じなのだろうかとも思ってしまう。
 
その上もともとがロングスリーパー体質の私ではあるが、会社に入って以来何度も長期間にわたって
過労死体験ツアーに行っては、週に三日四日の徹夜当たり前の生活をしてきたので、すっかり睡眠摂取には意地汚くなってしまい、いつもちょっと暇があれば眠い、眠らなければと、がつがつと惰眠を貪りたい衝動に駆られるようになってしまっていて、睡魔の術中にはまらないようにするのはとても大変なのだ。
  
今日も別のオフィスに会議に出かけたのだけれど、広い部屋に大人数の会議で誰が誰やらわからない顔も多かった。ともかく資料を配って眠気でもうろうとしながらも声を張り上げ説明をしたのだが、周回状に並んだ向かいの席のあたりで、誰かむさい男がわあわあ何かしゃべっている。誰だこのやろう、人が話しているのに黙って聞けよ、とガンつけたところが向こうもこちらを睨み返してまだしゃべっている。 なんだあ?、と目をこすってよく見ると目つきの悪い男は鏡張りの壁に写った己の姿だった。
 
そこで帰りの電車では寝過ごさないように本を読んでいたのだが、向かいの席に座ったうら若い女性がやはり花粉症なのだろうか、マスクをかけてこくりこくりと居眠りをしているのが目に入った。こんなとき人は、ああ、あなたも花粉症と戦っているのですかと、同病相哀れむ一種淡い連帯意識のようなものを抱くものである。ところが、その女性、睡魔に完全に陥落してしまったらしくついには本格的に寝息を立てて眠り込んでしまった。しかも鼻も詰まっているらしく寝息はイビキとなって電車中に響きわたりはじめた。やれやれ、と見ているとイビキはさらに大きくなって何も知らずに眠りこける本人には気の毒なほどである。それにしても何でこんなに品のない大きなイビキなんだろう、向かいの席なのにやけに近くで音が響くなあ、ああうるさい!と思ったところで目が覚めた。あ、今のは俺のイビキだったのか。どこからが夢だったのだろうか。。。見ると、当の女性が嘲笑をうかべてこっちを見ていた。
  
春うらら、今日もヒーローcaptain-jackは花粉症と睡魔という妖術使いとの戦いに明け暮れている。                             

                                             続く