風かおる秋の夜の酒は
昨夜帰宅すると、門前にかすかに花の香りがした。
深夜のことでもあり、かすかな香りであったので、気のせいかも知れないと思い気にも留めずさっさと家に入ってしまったのだが、
今朝になってもしやと思い庭をみると、まだ九月だというのにもうキンモクセイの花がほころび始めていたのだった。
ずいぶん早い開花である。去年のブログを見ると十月の初旬に開花していたようだから十日ほども早いことになる。 キンモクセイを植えている家や公園はとても多いので、天気さえ良ければたちまちあたりは樹の花の圧倒的な香りに包まれることになるだろう。
だがやがて、鈴なりに咲いた小さな花が際限がないと思えるほど地上にこぼれだして、オレンジ色の花模様のカーペットをしいたような豪奢な眺めが現れると、私はそわそわと落ち着かない気分に襲われる。
キンモクセイの花期は短い。
オレンジ色の小さな花が秋の本番を知らせて回るように町中を駆けめぐっては、あっという間にどこかへ行ってしまう。
ようやくたどり着いたわくわくする秋が、味わう間もなくこぼれ落ちていくのを拾い集めようとしては果たせず、私はそわそわと浮き足立つことになるのだ。
秋色の多様さ、秋祭りのにぎやかさ、
秋の微光のやわらかさ、
かすかにけむるような
秋の空気はひたすら穏やかだ。
他の季節にもまして、秋は折々の名残を惜しむ衝動が大きく、
キンモクセイの花は秋の初めの転換点だ。
にぎやかな行事が終わって、空気が秋本来の落ち着きを取り戻すと、
秋はいよいよ深く静かに更けていく...。
*
本格的な秋の到来を告げる小さな花のお客をお迎えした
秋の晩には桂花酒で一杯。
キンモクセイの花を白ワインに漬け込んだ桂花酒は楊貴妃も
愛飲したと伝えられる華やいだ香りの酒だ。
これは甘いので食後酒が良い。

