木を植えたい男 | 酒とホラの日々。

木を植えたい男

私がまだ学生をやっていたころ、近所の若い男が違法な植物を栽培したかどでつかまった。

男は、自分が栽培していたのは「ケシ」ではなく「ケツ」であり、「大麻」ではなくて「ダイアサ」という珍しい観賞用植物だと主張した、かどうかは知らないが、植物はすべて焼き払われた。

その昔、ヨーロッパの貴族や成金に園芸ブームが起きた頃、プラントハンターと呼ばれる植物採集業者が、世界のあちこちから非ヨーロッパ的な植物を持ち帰って販売していた。
とても欧州では生育できない植物を、暖房費や採光設備に金に糸目をつけず栽培することが、ステータスシンボルだったらしい。

思いもかけない植物を栽培してみたいという衝動は、植物を育てたことのある者なら誰しも多少はあるだろう。

ただ拙者の場合、法律的・経済的な制約を逸脱してまで植物に入れ込むことはないので、栽培欲の発露は非常にささやかなものだ。

たとえば、果物を食べると多くの場合タネが残る。
これがまた結構立派なものだから
ガーデナーでなくとも、ちょっと土に植えつけてみたい
誘惑に駆られることがある。

夏みかん、ゆず、柿、アボガド、等々・・
中でもアボガドの種は立派で存在感があるので
ついつい植えてしまっては始末に困った人も多いらしい。
大きくなるし、寒さには弱いし、見た目もたいしたことないし
実が成るまでには十八年くらいかかるというのだから、
育て上げるのにはそれなりの根気と環境が必要である。

モモクリ三年、カキ八年、アボガドバカヤロ十八年、なのである。

でもまあ、自分のうちが果樹園のようだったら、とたまに夢想してみる。