二七歳の素子は同年代の男より、孫ほどの歳の開きがある七五歳の橋爪に強く惹きつけられる。彼女はこの関係が永遠に続けばいいと願う。二人の静謐な世界を命がけで守ろうとする彼女の心情をミステリ色豊かに綴る「静かな妾宅」、夫を亡くした三八歳の志保は十歳年下の義理の息子に仄かな恋心を抱く。中年女の切なさを細密画のように描く「秋桜の家」を含む小池短篇の集大成ともいえる傑作集。
外科医の高遠と恋人の葉子はドライブ中の些細な事故からまるでドミノたおしのように罪を重ねる。その様を鮮やかに綴る「罪は罪を呼ぶ」、自首する決心がつかず町を徘徊する男がボケ老人を拾ったことから起こる皮肉な結末を巧みなプロット、卓越した心理描写で描く「姥捨ての街」を含む会心の5篇。
社長令嬢との結婚式を目前にした平凡なサラリーマンの史郎は舞子と名乗る魅力的な女を新居の豪華マンションに連れ込んだ。彼にとっては独身時代最後のちょっとした遊びのはずだったが…幸福の絶頂から些細なことで一気に悲劇の結末にむかう恐怖を描く「梁のある部屋」をはじめ、「小池ミステリ」第二期の代表的短篇を選りすぐった傑作集。
作家の間宮は過疎村の廃屋が気に入り、家族とともに東京から移住してきた。夢見村の自然は素晴らしかったが、墓地には大きな秘密があるようだった。村人たちも沈黙の中で何かを隠そうとしている。家の持ち主の「妻」にも二代にわたり異変が起こっていた。追いつめられていく若い家族の限りない恐怖!
突然舞い込んだ訃報に疼いた。辻堂環、44歳、急性心不全――。天衣無縫の画家が彼女たちの生活のすべてを支配したあのころ。身も世もない恋に時を忘れた、天国のような煉獄のような日々。封印された記憶がたちまち溶け出して、六人の女を焦がしてゆく・・・・・・。全6編
三島由紀夫邸を寸分違わずコピィした変奇な館の落成パーティが、四人の運命を手繰り寄せた。交通事故で性の悦びを閉ざされた美青年。絶望とうらはらに燃えさかる欲望のほむら。館で再会した男女のそれぞれの性、それぞれの愛、そして死の翳り。
一通の手紙が、遠藤雅子を恐怖のどん底に突き落とした。<僕には、きみの僕への想いが手に取るようにわかる。マコ、きみを愛しているよ。高校時代から、ずっとだ> 高校を卒業して11年、差出人の児玉秀美には一度も会っていないばかりか、顔も覚えていなかった。だが、しだいに狂気の色を濃くしながら、手紙は続き、やがて電話が・・・。はたして秀美は正気なのか、それとも・・・。"至上の愛"を求める男と、餌食にされた女の葛藤を描く。
会えば会うほど苦しくなり、切なさが増して、別れがたくなる。交通事故で半身不随になった夫の世話をする毎日。唯一、心を支えてくれるのがあの人、夫の親友であり、事故の加害者でもある新吾だった。これは宿命的な恋、だが人は欲求不満の人妻と嗤うだろう──秘めた恋の果てに罪を犯した女の、狂おしい心情を活写。
「マユミ、君だけを残して行くわけにいかないよ」唯一の心の慰めだったリスの死骸を隠し持って、アメリカから帰国する孤独な留学生・・・。「千春、君だけが汚れた僕を救えるんだよ」テレビの女性キャスターに異常な視線を注ぎ、愛するセントポーリアと共に彼女をガラスの部屋で育てたいと望む男・・・。ペスト菌に感染したりすがもたらす禍いと、病んだ男の精神が引き起こす溶解。平穏な街に恐怖の二重奏がかなでられる。