株式会社トウケンの社長・伊村耕造は、その朝、富士山麓の土地開発の打ち合わせのため、中央高速道路を通り、甲府に向かっていた。トウケンは、旧社名を東洋絹布株式会社と称し、繊維会社して創設された。岳父である先代社長からバトンタッチをうけた伊村は、大阪五綿から発達した総合商社を模倣し、トウケンをみごと総合商社に脱皮発展させることに成功していた。いま彼は「伊村天皇」と社内で畏敬されるワンマン社長だった。車が大月市を過ぎたとき、伊村は、突然、運転手に河口湖に向かうように命じた。予定外のコースである。