「西武園ゆうえんち、一緒に行かない?」
まだ付き合い始める前。
エレベーターを3階で降りて、
カラオケ店に入るところでそう言われた。
「え、何で私が西武園ゆうえんち行きたいの知ってるの…??」
『また同じこと考えてた!』
というのが妙に印象的だった。
***
聖くんと付き合い始めて3ヵ月くらい経つ。
たぶん今日は初めての、
ガッツリお出かけデートになる。
私は一足先に待ち合わせ場所に着いていた。
ソワソワしてしまうのはたぶん、今日の格好のせいだ。
数日前にお金を出し合って購入した、
黒いパーカー。
34歳の私が着るのにはちょっと、、
若作りなのかな?
ボトムにお気に入りのブランドのキュロットを合わせてみた。
攻めすぎなのか、年相応でいられているのか、
そもそも年相応のファッションって何なのか…?
そんなようなことを一通り考え尽くしていたら、
改札口にこれまた カラスみたいな格好 の彼が現れた。
「おはよ。お、良い感じじゃん!」
付き合って3ヵ月だけど、
この反応の仕方は ザ・好印象 の時のセリフだな。
「ありがとう」
黒ずくめの格好な2人。
自意識過剰な私としては、
昭和レトロな園内で、かなり浮いた存在でいた気がする。
夕日の丘商店街でお団子を食べて。
縁日通りで輪投げをしたり。
メリーゴーランドは馬車にした。
バイキングが好き過ぎて3回乗った。
快晴の空。観覧車を背景に、黒ずくめのイケメン君、激写。
レトロな街に、黒い点々のフタリ。
セピア色の中にしっかりと空だけ青い。
ああ。聖くん、可愛いな。
こんなに目を輝かせて、子どもみたいに。
聖くんが楽しいのが、私も一番
楽しいな。
***
「この後、どうしよっか?」
っていう話が出てたのは、
遊園地にいた終盤、バイキングの順番待ちしてた時だったと思う。
「そうだね。少し食べてから帰る?」
「時間あるから、ラウワン行かね?」
「…え?」
ラウワン?
「スポッチャしたい。」
帰らないんか~い!!!!!
遊園地の後に…ラウンドワンの、
スポッチャ…?
私、いま、けっこうヘトヘトなんだけど…?
***
いやあ~
若さって、すごいっすね。
まさか西武園ゆうえんちの後にラウンドワンに行き、
①端からしらみつぶしにスポッチャコーナーで遊び
②ゲーセンコーナーでしこたまクレーンゲームで遊び
③閉店時間までメダルの競馬ゲームで遊んで〆る
34歳のお姉さんはヘトヘトを通り越して、
むしろコーフンで、目がらんらんとしてきましたよ…?
「うー、眠い」
聖くんが帰りの駅のホームで、
やっと眠気を訴えました。
可愛くて、iPhoneで激写してました。
駅でバイバイですか?
いいえ、違いました。
最寄り駅の日高屋で二人して油そばを食べ、
その日私は、聖くんのお部屋に泊まりました。
***
空中ブランコには2回乗った。
聖くんって、空中ブランコに乗る時は、
手をだらんと下げて、
風を感じて座るんだね。
スカンと晴れた空。
ブランコに座って、風を目一杯受けて。
私は自分が感じているこの心地よさを、
この瞬間一緒に共有できていることが嬉しい。
そして何より、
空中に揺られながら眺める、
胸が締め付けられる後ろ姿。
このままずっと、ずっと、
見惚れていたい。
こんなにゼイタクな時間があるんだな。
聖くんが楽しいのが、私も一番楽しいな。
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2023年10月×日 運命の日まであと138日
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