「僕さ、バカな人がうらやましいんだよね」

唐突に夫が呟いた。

目線は宙を眺めていて、きっと物思いにふけっていたのだろう。

「バカな人?どういうこと?」

私はカチャカチャと朝食で使った食器をまとめながら聞き返す。

夫はうーん、とうなった後、ポツリポツリと話し出した。

「僕は結構いろいろ考えて悩んじゃうんだ。お前は知ってると思うけど。それで、考えすぎて疲れちゃうんだよね。全部嫌になることもある。だから、バカな人なら悩むこともないんだろうし、バカみたいに笑って生きていけるのかなって。そういう人生の方が楽しそうだなって」

「ふふふ・・・」

私が笑いを漏らしたのを夫は不思議そうに見ている。

「何かおかしなこと言った?」

「えぇ、そうね・・・」

 

考えすぎて悩んでしまうのはバカとかそういうんじゃなくて、単に性格の問題だろう。夫は心配性だったり、慎重すぎてしまうことがあるだけだ。だから楽観的な性格の人をうらやましく感じるのかもしれない。

でも慎重なのは決して悪いことではない。石橋を叩いて渡る方がいいときだって少なからずあるのだから。叩きに叩きまくって、それでも大丈夫と判断できたのならば自信を持ってその橋を渡れるはずだ。たとえ橋が落ちてしまったとしても、後悔はしないはずだ。

 

「私があなたに言いたいことはね」

「うん」

夫が真剣な表情でこちらを見つめている。

その真面目なところも良いところだから。

「考えるんじゃない、感じるんだ!」

「・・・は?」

夫はぽかんと口を開けて固まっている。

「あははは」

私は笑いながら食器を台所へ運び出した。

あなたのおかげで、今日も笑いの絶えない楽しい1日になりそうだよ。

 

 

面白いと思ったらクリックで応援お願いします!

 にほんブログ村 小説ブログへ