幻の名作 | HWD+e

幻の名作

 15ANIV.のRAWで、懐かしい面々。中にビッグダディーVのような巨体で、肌に近い色のコスチュームを身に着けた、髭とボールドヘッドの、ユージーンのような趣の、ファニーな御仁が目に留まったろう。バスチャン・ブーガーだ。


 バスチャン・ブーガーは、カナダの苦労人、マイク・ショー。ショーが、紆余曲折を経て、最後に行き着いて、RAWという舞台で皆の記憶に残した彼の最終的な姿。マイク・ショーが多くの人々に憶えられているのはバスチャン・ブーガーとしてだ。それがRAWの力というものでもある。しかし・・。


 マイク・ショーは、カルガリーでインド人マッカン・シンとして、ダイナマイト・キッドとフュードをすることでやっと頭角を表わし、89年、WCWの発足と同時に、フライング・ブライアンなどとともに、カルガリーからアトランタに入ってくる。WCWで与えられた、精神異常の収監者ノーマン・ザ・ルナティックというキャラクターは、ティディ・ロングに任された最初の作品だった。


 ノーマンは、ショーの容姿や個性はもとより、そのギミックの演じ方がかなり上手かったこともあり、WCWが扱ったこの手の商品としては、珍しくヒットした部類に入る。そしてしばらくして、その演技力に目を付けられたショーは、タイタンに欲される。


 WWFで与えられたのは、ノーマンの面白さを更にデフォルメし、マクマンマジックで進化の味付けをした、常軌逸脱の修道僧、マッド・モンク。文体だけで危なさが漂う。しかしだからこそ、このキャラクターには期待が膨らんだ。


 力の入れようも凄かった。何しろテイカーとの大規模な宗教戦争が予定されていたのだ。演出は、そのルックスの整備から、テイカーに対するものと同等の扱い。特殊な舞台装置が組まれ、特別のセグメントが割かれた。気味の悪い元々の容姿とも相まって、その迫力は、大傑作誕生を予感させしめた。


 しかしモンクのプロジェクトは間もなく、突然中止される。マッド・モンクの大々的なプロモーションが始まったところ、そのあまりの迫真振りに、その種の団体などから抗議が殺到し、中止を余儀なくされたと言われている。


 「マッド・モンク」のプロジェクトは、我々が今でも最も悔いを残す、未完未観の、未公開作品の超大作。ギミックと演技が優秀過ぎたがゆえ、その影響力を恐怖され、道半ばに潰された・・。ブーガーは、名作マッド・モンクの代わりとして現れた、モンクの迫力の無い、気の抜けた亜流だった。実際のところ間の抜けたキャラで、もちろんタイトル戦線にも上がれず、ファニーな端役として終っていっている。テイカーとのフュードなど、成立しもしなかった。


 相手は大統領選をも左右する、不特定多数を含む一大勢力。FBIやタイムワーナーとは戦えても、これには抗しきれないと判断したのか。でも、それでも、彼らとはいえ、マイク・ショーが生涯でたった一度だけ掴み掛けたビッグチャンスを、潰す権利があっただろうか。或いは折れて諦める権利も。ギミックレスリング史上屈指になるだろう、この名作候補に対し。本物の宗教戦争をやって来て、今も止められず、だからこそそこに来た彼は、我々も含めたこの世界全体の、実際へのアイロニではないか。


 マイク・ショーはボールドヘッドで太っており、今もファニーだった。でも本来ならそこに、かつてテイカーと大戦争をした、史上屈指の名キャラの姿を、我々は畏怖の念を持って見つめていていいはずだった。今もこうして見させられることになるバスチャン・ブーガー。そのギャップを、今でも我々は、忸怩たる思いで埋められないでいる。