◇
ジェジュンと会う時は数人を介して会う。
ジェジュンもそろそろ兵役を控えているし迂闊に二人の写真が撮られたり妙な噂がたてられたり
おかしな騒ぎになるのは極力避けねばならない。
仲介が必要な面倒くさい手間をかけてまで会う必要があるのかと言われればそうではないのかもしれない。
それでも、彼に会うと郷愁に胸が震える。
敢えて郷愁と言い聞かせているこの鼓動は
テーブルの向こうとこちら、
席を隔て、
時を隔て、
彼を察知した途端に震えるようにできているんだと思い知る。
「ユノ食べてる?」
「おう」
「これ好きだろ?もっと取りなよ、ちょっとごめん、これユノの方に回してくれる?」
「うまい?」
「うん」
「だろ?追加しようか?」
彼に再会する前までは色々な考えが頭をめぐっていた。
もしも彼に会えたら何から話そう。
どんなことから話せばいい?
だけど実際その時が来ると
事前の考えや準備なんて何の役にも立たなかった。
ただ
目を見て
彼の瞳に湧き上がってきた涙を見たら
すべてを忘れてしまった。
離れていた日々、
愛憎に苦悩した夜、
抜け殻の身体を引きずった朝、
そのすべての時間が停止して、一瞬で消えてしまった。
「ユノ……」
「ジェジュンア」
その身体を再びこの腕に抱きしめた時──。
ただ
恋しかったと心臓が泣きだした。
彼がこの腕の中にいる。
ここにジェジュンがいる。
頭の中が壊れたみたいに、それだけしか考えられなかった。
再会から数回会うようになっても、まだジェジュンはユノに会うたび(顔を合わせるたび)に瞳を潤ませた。
周りが楽しく盛り上げて、どうにか酒が入ってようやく陽気なジェジュンが戻ってくる。
そんなジェジュンだから、やはり宴が引ける間際には必ず涙をためてユノを見上げた。
「今度はいつ会えるかな。俺…もうすぐ(兵役に)行くかも…。もう、これが最後かも」
帰宅するユノに付いて店の出口の手前まで見送りに来たジェジュンは、いつもこれが「最後最後」という癖がついたようだった。
「すぐ泣く。まだ先だろ?何度も会えるさ」
「本当に?」
「ああ」
「でももっと一秒でも長く一緒にいたいんだよ」
「……(周りに)聞こえるぞ」
「みんな分かってるよ」
「それでも、あんまりそういうことは言うな」
「………」
「じゃぁ、またな」
「あ、ねぇユノ」
「うん?」
「今度、ふたりで会えないかな。
もっと、ふたりで話をする時間が必要だと思わない?俺たち」
「………」
きっとそうなんだろう。
これまでも、もっとうまく話しあえる時間があったなら俺たちはこんなに長い間苦しまなくて済んだのだろうから。
だけどもうその「時」も流れた。
長い時を経た今、もしもジェジュンと二人きりで逢えたなら…
自分はどうなってしまうのだろう。
「……ユノ…」
ユノの返答を待ちわびたのか、ジェジュンがユノの胸に顔をうずめるように抱きついてきた。
別れ際のハグにしては哀切すぎる肩を、ユノは少し抱いてすぐに離した。
長く触れあえば離しがたくなるのが自分の中の答えだと分かる。
だけど……
ジェジュン、
こうしているとお前も思い出さないか?
──ねぇこれ、お土産に持って帰ろうよ
きっとあの子お腹すかせてるから!
なぁ、浮かんでくるだろう?
家で待ってる あの拗ねた横顔…
「……ユノ…?」
「あぁ、いや、…そうだな。…今度はチャンミンも呼んでみるよ」
「え……?
あ、うん…そうだね。
チャンミン…会いたい。
ずっと待ってると伝えて」
「うん、じゃ……帰るよ」
「風邪引かないようにね」
「うん」
「愛してる」
「うん」
「…………」
名残惜しげにもう一度、
後ろからユノの背中にジェジュンの手が触れた。
「…………」
仄かな熱。
まるで母親みたいな温もりだと、ユノは少し目を閉じた。
周りに大勢の目があるからそんなふうに思うのかもしれないが
それでいい。
友情、慕情、愛情、きっと
俺たちはもう、そういうものすべてを凌駕したんだ。
そう思われるのがいい。
この先ずっと、
それでいい。
「……じゃ」
ユノはいまだジェジュンの視線が注がれているだろう背中の熱を振り切るようにして店を出た。
つづく