薬剤耐性対策に関する全国的な普及啓発活動を推進するため、政府は、毎年11月を「薬剤耐性(AMR)対策推進月間」と定めています。今回は、食品安全委員会が行う薬剤耐性菌の食品健康影響評価についてご紹介します。

 

【薬剤耐性菌の食品健康影響評価とは?】

 

前回、農林水産省は食品安全委員会の評価結果を踏まえて、家畜などにおける薬剤耐性菌の発生を最小限にする対策を講じていることをご紹介しました。抗菌性物質は家畜などにも使われています。しかし、不適切に使用すれば、薬剤耐性菌が生き延びて、増えてしまいます。家畜などに存在する薬剤耐性菌は、畜水産物の中で生存し、畜水産物を介して人の口に運ばれていく可能性があります。人の体の中に入った薬剤耐性菌がもし病気を引き起こした場合は、病気の治療に使われる抗菌性物質の効果が弱まったり、効かなくなったりすることがあります。つまり、家畜などに抗菌性物質を使用した結果、人の病気の治療が難しくなる可能性があるのです。

 

そこで、食品安全委員会は、家畜などに抗菌性物質が使われることで選択された薬剤耐性菌が、食品を介して人に伝播し、人がその薬剤耐性菌を原因とする感染症を発症した場合に、人の健康にどの程度影響を及ぼすのか評価(=食品健康影響評価)しています。評価は、家畜などに抗菌性物質が使われるところから、人の健康に影響を与えるまでを大きく3段階に分けて行います。すなわち、抗菌性物質が、家畜などに使われたことによって、

① 家畜などの体の中で、どのような細菌がどれくらいの頻度で耐性を獲得しているのか

② ①で耐性を獲得した細菌に、食品を介して人に伝播する可能性がどれくらいあるのか

③ 伝播した薬剤耐性菌により病気が引き起こされた場合、人の治療が、どれくらい困難になるのか

等を総合的に勘案して、人用抗菌性物質による治療効果が弱くなってしまう、又は治療効果がなくなってしまう可能性や程度(=リスク)を推定します。

 

例えば、人や家畜などの双方で病気の治療薬として使用される抗菌性物質であって、人の治療において代わりとなる抗菌性物質がない場合は人の健康へのリスクが大きくなる可能性が高くなります。一方、家畜などでは治療薬として使用されているけれども、人の治療には用いられない抗菌性物質については、耐性を獲得しても人の治療に影響しないため、人の健康へのリスクが小さくなる可能性が高くなります。

 

食品安全委員会では、令和5年10月現在、国内の薬剤耐性菌に詳しい11人の専門家が集まり、科学的な議論を積み重ねて評価が行われています。次回の投稿では、食品安全委員会のこれまでの評価結果や評価結果がどう活用されているのかについてご紹介します。また、食品安全委員会が取り組んできた薬剤耐性対策の詳細については、以下のリンクでもご紹介していますので是非ご覧ください。

 

〇食品安全委員会の20年を振り返る(第2回 薬剤耐性(AMR)のリスク評価に挑む)

https://www.fsc.go.jp/iinkai/20shunen/02_amr.html

 

○薬剤耐性菌の食品健康影響評価に関する情報

http://www.fsc.go.jp/senmon/sonota/amr_wg/amr_info.html

 

○薬剤耐性(AMR)(内閣官房)

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/infection/activities/amr.html

#食品安全委員会 #薬剤耐性 #AMR #薬剤耐性対策推進月間