「薬剤耐性」をご存知ですか?薬剤耐性(AMR:Antimicrobial Resistance)とは、感染症の原因となる微生物(細菌、真菌、ウイルス、寄生虫)に対して、抗微生物剤が効きにくくなる、または効かなくなることを指します。微生物の中でも、薬剤耐性を示す細菌、いわゆる「薬剤耐性菌」が世界中で確認されており、この出現を減らすことは、国際的な課題のひとつとなっています。日本でも、関係府省が連携して薬剤耐性菌の拡大防止に取り組んでいます。薬剤耐性対策に関する全国的な普及啓発活動を推進するため、政府は、毎年11月を「薬剤耐性(AMR)対策推進月間」と定めています。

 

【「感染症」と「抗菌性物質」】

 

「感染症」とは、細菌やウイルスなどの微生物が、人や動物に侵入し、何らかの病的な症状があらわれる病気のことを言います。微生物が人や動物に侵入したからと言って、必ず感染症に罹患するわけではなく、人や動物の微生物に対する抵抗力や微生物の病気を引き起こそうとする力の強さなどに左右されます。この微生物は、人、動物、食品、水、空気、土の中など地球上のあらゆる場所に存在しています。微生物は、微生物を保有する動物や人との接触や、微生物に汚染された食品や水の摂取などによって、人や動物の体の中に入り、感染症を引き起こす原因となります。「食中毒」の多くは食品を介した「感染症」です。

 

「抗菌性物質」は、細菌が増えるのを抑えたり、殺したりする働きのあるものを言います。抗菌性物質は、細菌の特定の構造に結合して、細菌が生存したり増えたりするための機能を阻害することで、効果を発揮します。細菌による感染症が引き起こされた場合、この抗菌性物質を使って治療します。しかし、抗菌性物質は細菌にとっては「毒」なので、細菌はこの毒に抵抗しようとします。抵抗する方法は色々と知られていますが大きなものはこの4つです。

・細菌の中に抗菌性物質を入れない

・細菌の中に入った抗菌性物質を外にくみ出す

・抗菌性物質が結合する構造のかたちを変えて、効果が発揮できないようにする

・抗菌性物質を分解してしまう

 

抗菌性物質に抵抗できる能力を持った細菌を「薬剤耐性菌」と言います。抗菌性物質の不適切な使用により、この薬剤耐性菌だけが生き残り、増えてしまいます。薬剤耐性菌が増えると、抗菌性物質の効き目がなくなったり、弱くなったりするため、これまで治療できていた感染症の治療が難しくなったり、治療できなくなったりします。

 

【食品安全と薬剤耐性菌】

 

動物も人と同じように細菌による感染症に罹患します。この時、家畜や養殖魚などの動物の治療にも、抗菌性物質が使われています。動物にとっても、抗菌性物質はなくてはならないものです。しかし、不適切な方法で抗菌性物質を使用すれば、動物の中で薬剤耐性菌が増えてしまいます。家畜などの中で増えた薬剤耐性菌が食品を介して人に伝播し、人の健康に影響を与える可能性もあります。

 

食品安全委員会では、農林水産省と密に連携し、薬剤耐性菌が食品を介して人に伝播した時、人の健康にどのような影響を及ぼすのか、科学的情報に基づき評価をしています。評価結果は農林水産省に通知され、農林水産省はその結果を踏まえて、家畜などに抗菌性物質を使用した場合の薬剤耐性菌の発生を最小限に抑える取組を行っています。この取組が、畜水産食品の安全性の確保につながっています。このように、食品安全委員会による薬剤耐性菌に関する評価は、農林水産省による薬剤耐性菌対策を推進する一助となっており、結果として食品の安全性確保に貢献しているのです。

 

次回の投稿では、食品安全委員会による薬剤耐性菌に関する評価方法についてご紹介する予定です!また、食品安全委員会が取り組んできた薬剤耐性対策の詳細については、以下のリンクでもご紹介しています。

 

〇食品安全委員会の20年を振り返る(第2回 薬剤耐性(AMR)のリスク評価に挑む)

https://www.fsc.go.jp/iinkai/20shunen/02_amr.html

 

○薬剤耐性菌の食品健康影響評価に関する情報

http://www.fsc.go.jp/senmon/sonota/amr_wg/amr_info.html

 

○薬剤耐性(AMR)(内閣官房)

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/infection/activities/amr.html

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今回使用の画像の出典は、国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンターホームページ