脂質は三大栄養素のひとつであり、また生体活動に必要なビタミンAやビタミンDの吸収を助けるなどの働きが知られています。脂質は主にトリグリセリドとコレステロールから成り、さらにトリグリセリドはグリセロールと脂肪酸から構成されています。このトリグリセリド中の脂肪酸には、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸があります。不飽和脂肪酸の多くはシス型の二重結合をもっていますが、反すう動物の胃に存在している微生物によりトランス型の二重結合をもつものが一部生成されます。また、常温で液体の植物油を原料として工業的に水素を添加することで常温で固体・半固体の油脂(部分水素添加油脂)を作る際に、一部、トランス脂肪酸が生成されることがわかっています。

 

 飽和脂肪酸やトランス脂肪酸は流動性が低く、常温で固体又は半固体状を示します。これら脂肪酸を含む油脂は、加工食品のクリスピー感や揚げ物のカラッとした揚げ上がりに影響することが知られています。トランス脂肪酸のなかには我々の体の中でエネルギー変換しやすいものと、エネルギー変換しにくいものがあります。部分水素添加によってできるトランス脂肪酸のなかには、我々の体のなかで分解し難いトランス脂肪酸(エライジン酸など)があります。一方、乳製品等に含まれるトランス脂肪酸(バクセン酸など)は、体のなかで比較的速やかに分解することができます。

 

 トランス脂肪酸を多く含む部分水素添加油脂の摂取量の多い諸外国における研究結果によれば、トランス脂肪酸の摂取により、冠動脈疾患の発症のリスクが高いと考えられています。また、肥満、アレルギー性疾患についても関連が報告されています。

 

 WHOは、勧告(目標)基準として難代謝性のトランス脂肪酸の摂取量を総エネルギー比の1%未満としています。欧米人のトランス脂肪酸の摂取量はこれよりも高い数値を示していましたが、食品事業者が低減対策等を行った結果、欧米諸国の摂取量も1%付近まで下がっているところです。また、日本人の平均摂取量はこれを下回っており、0.31%となっています。

 

 一方、日本人の飽和脂肪酸の摂取量は、目標値(総摂取エネルギーに占める割合として7%以下)に対して高い数値を示す年齢層もあります。脂質を摂りすぎると、肥満・高脂血症・高血圧などのリスクを高める可能性もあります。

 

 健康のためには、トランス脂肪酸だけでなく、飽和脂肪酸の摂取、さらには脂質全体の摂取に目を向けることが必要であり、食品安全委員会としては、脂質の過剰摂取を避け、バランスの良い食生活を心掛けることが大切と考えます。

 

 

 

(参考)

報道関係者との意見交換会での配布資料

http://www.fsc.go.jp/fsciis/meetingMaterial/show/kai20180524ik1

 

食品健康影響評価書「食品に含まれるトランス脂肪酸」

http://www.fsc.go.jp/fsciis/evaluationDocument/show/kya20120308001