今年になってから、飲食店や調理施設が提供したカレーライス等の煮込み料理を原因とするウエルシュ菌食中毒が各地で発生し、毎回、数十人単位の患者数が報 告されています。食中毒というとこのような集団発生を思い浮かべがちですが、ウエルシュ菌食中毒は、カレーなど家庭でもお馴染みの煮込み料理が原因となります。食中毒予防のポイントは、①前日調理は避け、なるべく早く食べきること。②残った場合は、すばやく冷やすことが大事。小分けして冷蔵庫で保管しま しょう。そして、再加熱は十分行いましょう。
●ウエルシュ菌とは
ウエルシュ菌は、酸素のないところで増殖する細菌で、人や動物の腸管や土壌、食品、塵芥等自然界に広く生息し、産生する毒素によって、A型からE型までの 5種類に分類されます。このうち、A型ウエルシュ菌は、100℃、1~6時間の加熱に耐える芽胞*を形成し、食中毒を起こす菌のほとんどが、これに属しています。
(*芽胞:ウエルシュ菌など、特定の菌が形成する細胞構造の一種で、生育環境が増殖に適さなくなると菌体内に形成し、休眠状態となる。加熱や乾燥など過酷な条件に対して強い抵抗性をもち、発育に適した環境になると、発芽して菌は再び増殖する。)
●ウエルシュ菌食中毒
ウエルシュ菌による食中毒は、食物と共に腸管に達した菌が産生する腸管毒(エンテロトキシン)によって起こるものです。潜伏期間は6〜18時間(平均10 時間)、主な症状は下痢と腹痛で、嘔吐や発熱はまれです。原因食品としては、カレー、シチューなどの煮込み料理や、肉、魚介類及び野菜類を使用した煮物、 大量調理食品などが挙げられます。
ウエルシュ菌は耐熱性の芽胞を形成するため、通常の調理加熱では死滅せずに残存します。この芽胞が、10℃~54℃の温度帯で酸素の少ない環境になると、 発芽して増殖するので、緩慢な冷却や室温での長時間放置をした食品を食べると、ウエルシュ菌が腸の中で腸管毒を産生し、食中毒を引き起こすことになりま す。なお、ウエルシュ菌の出すエンテロトキシンは、熱に弱く、60℃、10分間の加熱で不活化されます。
●予防方法 -ウエルシュ菌の数を増やさないことが最重要です-
ウエルシュ菌は自然界にいる菌であるため、食品への汚染を根絶することは不可能ですが、発症には多くの菌量が必要とされているので、菌を増やさないことが最重要です。
・調理の際にはしっかり加熱し、調理後、速やかに食べるようにしましょう。
・一度に大量に調理し、作り置きをする場合などには、食品中の菌の増殖を防ぐために、室温など10℃~54℃の増殖する温度帯で放置しないよう気を付けま しょう。加熱調理した食品の冷却は、小分けにするなどして速やかに行い、冷蔵庫など10℃以下で保管するようにしましょう。
・食品を再加熱する場合も、十分に加熱して、増殖した菌を死滅させる必要があります。特に、大鍋、深鍋や電子レンジによる加熱では、部分的に加熱不十分になりやすいので、加熱する際に、かきまぜるなどして、加熱むらがないように注意してください。
(参考)
・食品安全委員会 食中毒の概要:http://www.fsc.go.jp/sonota/clostridium_perfringens_e1.pdf
・食品安全委員会 ウエルシュ菌 ファクトシート:
http://www.fsc.go.jp/sonota/factsheets/03clostridium.pdf
・食品安全委員会 「食の安全ダイヤル」に寄せられた質問等Q&Aから (IV-7 ウエルシュ菌)