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内閣府 食品安全委員会e-マガジン【読み物版】
牛海綿状脳症(BSE)国内対策の見直しに係る食品健康影響評価
(健康と畜牛のBSE検査の廃止)について
平成28年10月28日配信
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食品安全委員会は、2016年8月、厚生労働省からの諮問を受けて進めていた「牛海綿状脳症(BSE)国内対策の見直しに係る食品健康影響評価」について、「現在と畜場において実施されている、食用にと畜される48か月齢超の健康牛のBSE検査について現行基準を継続した場合と廃止した場合のリスクの差は非常に小さく、人への健康影響は無視できる。」とする評価結果を取りまとめました。
その経緯等についてお送りします。
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1.評価の経緯
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牛海綿状脳症(BSE)【*1】とは牛がかかる病気の一つで、その原因と考えられている異常プリオンたん白質を含んだ食品の摂取により、人のプリオン病が発症することが知られています。
BSEは、1990年代前半をピークとして英国を中心に欧州で多数発生しました。我が国では、2001年9月に初めて発生が確認され、厚生労働省及び農林水産省において、飼料規制や牛のと畜の際の特定危険部位(SRM)【*2】の除去など、BSEの牛への感染及び人への感染防止のためのさまざまな対策がとられてきました。
これらの対策により、国内では、2002年1月に生まれた1頭を最後に、以降14年間に出生した牛にBSEの発生は確認されていません。
また、2009年度以降、現在までの7年間、600万頭以上の牛を検査し、BSE検査陽性牛は確認されていません。
こうした状況の下、食品安全委員会は、2015年12月に厚生労働省から、BSEの国内対策として行われてきた「食用にと畜される健康牛のBSE検査について現行基準(48か月齢超の健康と畜牛を検査)を継続した場合と廃止した場合のリスクの比較」についての評価依頼を受けました。
本件についてはプリオン専門調査会において審議が行われ、2016年8月30日に食品安全委員会はその評価結果を取りまとめ、厚生労働省に通知しました。
【*1】牛海綿状脳症(BSE)
牛の病気の一つ。異常プリオンたん白質が、主として脳に蓄積して脳の組織が海綿(スポンジ)状となり、異常行動や運動失調などが現れ、死亡する。脳から異常プリオンたん白質を検出することで診断する。
【*2】特定危険部位(SRM)
BSEの病原体と考えられている異常プリオンたん白質が蓄積しやすい部位のこと。食品として利用することが禁止されている。
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2.厚生労働省からの諮問内容
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厚生労働省から具体的に意見を求められた内容は、以下のとおり。
(1)検査対象月齢について
食用にと畜される健康牛のBSE検査について、現行基準(48か月齢超)を継続した場合 と、廃止した場合のリスクを比較
※ ただし、廃止した場合にも、24か月齢以上の牛のうち、1. 生体検査において、運動障害、知覚障害、反射異常または意識障害等の神経症状が疑われたもの、2. 全身症状を呈するものは、と畜場でのBSE検査対象とする。
(2)SRMの範囲について
現行の「全月齢の扁桃・回腸遠位部・30か月齢超の頭部(舌・頬肉・皮・扁桃を除く)脊髄・脊柱」から「30か月齢超の頭部(舌・頬肉・皮・扁桃を除く)・脊髄」に変更した場合のリスクを比較
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3.評価に当たって
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今回のリスク評価に当たっては、食用にと畜される健康牛のBSE検査を廃止した場合の、牛肉等の摂取に由来するBSEプリオン【*3】による変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)【*4】を含む人のプリオン病発症の可能性について総合的に評価しました。
なお、諮問された(2)のSRMの範囲については、飼料規制等を含めたBSE対策全般への影響について確認が必要と判断し、今後のリスク管理機関における整理を踏まえ、検討することとした(今回は評価しない)。
【*3】BSEプリオン
BSEの原因と考えられている異常プリオンたん白質。
【*4】変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)
人のプリオン病の一つで、人間の脳に海綿(スポンジ)状の変化を起こす病気。BSE感染牛由来の食品を介して人に感染する可能性があると考えられている。
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4.評価結果
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食品安全委員会では、2013年5月にもBSEに関する評価を行い、飼料規制等のBSE対策が継続されているなかでは、今後、「定型BSEが発生する可能性は極めて低い」としました※。
その後、BSEの発生が確認されていない状況を踏まえると、この評価は妥当と考えました。
(※URL : https://www.fsc.go.jp/sonota/bse/bse_hyoka_1305.pdf
)
また、非定型BSE【*5】について、以下の知見が得られています。
● 疫学的に非定型BSEと人のプリオン病との関連を示唆する報告はない。
● 非定型BSEの発生頻度は極めて低い。
● 非定型BSEのうち、H型については、動物実験では人への感染の可能性は確認できない。L型については、SRM以外の組織の感染性は極めて低い。
以上に基づいて、食品安全委員会は、2013年5月評価書における評価のとおり、国内での牛群のBSE感染状況、輸入規制、飼料規制、食肉処理工程でのリスク低減措置が実効性をもって継続されていることに加え、牛と人との種間バリア【*6】の存在を踏まえると、SRM以外の牛肉等を食べることで、人がBSEプリオンによるvCJDを含むプリオン病を発症する可能性は極めて低い、と考えました。
こうしたことから、現在と畜場で行われている、食用にと畜される48か月齢超の健康牛のBSE検査を継続した場合と廃止した場合のリスクの差は非常に小さく、人への健康影響は無視できる、と判断しました。
さらに、評価に際し、
(1) 家畜へのBSEの感染を防ぐには飼料規制が極めて重要であることから、飼料規制の実効性が維持されていることが確認できるよう、高リスク牛(死亡牛など)を対象としたBSE検査を今後も引き続き行い、BSEの発生状況を確認することが必要
(2) 引き続き、全てのと畜牛に対し、と畜前の生体検査が適切に行われること、24か月齢以上の牛のうち、生体検査で神経症状が疑われた牛等についてはBSE検査を行うことが必要
(3) 今後、特に非定型BSEに関する最新の知見についても引き続き収集する必要がある
としました。
【*5】非定型BSE
従来型の「定型BSE」に対し、「定型BSE」とは異なる異常プリオンたん白質が原因となっているBSEを「非定型BSE」と呼ぶ。H型やL型が知られている。非定型BSEは、肉骨粉【*7】などの飼料を介した感染によらず、高齢牛で孤発的(自然発生的)に発生することが示唆されている。
【*6】種間バリア
病原体が動物の種を超えて伝達される際の障壁のこと。BSEプリオンに対しては、人は牛に比べて感
染し難い。
【*7】肉骨粉
牛や豚などの食用とならない部分をレンダリング(化製処理)した後、乾燥粉砕して作った粉末状のもの。BSEが牛の間にまん延した原因は、BSE感染牛を原料とした肉骨粉などを飼料として使用したことにあると考えられているため、現在、国内では、牛などの反すう動物を原料とした肉骨粉は養魚用を除き、家畜用飼料への使用が禁止(飼料規制)されている。
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5.今後の予定
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今回の評価結果を受け、厚生労働省では今後、と畜場でのBSE検査の見直しについて検討する予定です(2016年9月現在)。
なお、厚生労働省は、「24か月齢以上の牛のうち、1. 生体検査において、運動障害、知覚障害、反射異常または意識障害等の神経症状が疑われたもの、2. 全身症状を呈するもの」を対象とする検査は継続するとしています。
≪参考≫
・食品安全委員会;「BSEに関する情報」
https://www.fsc.go.jp/senmon/prion/bse_information.html
・政府広報オンライン(内閣府大臣官房政府広報室);新たなBSE対策がスタート「牛肉の安全はどう守られているの?」