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内閣府 食品安全委員会e-マガジン【読み物版】

生活の中の食品安全-食中毒予防の三原則について-

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e-マガジン【読み物版】では、「生活の中の食品安全」と題して、日々の生活の中で食品安全について気を付けた方が良いことや、知っていると役に立つことを中心に情報発信したいと考えています。
今月は、当委員会の熊谷進委員より、「食中毒予防の三原則について」をお送りします。

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はじめに   食中毒予防の三原則

-「つけない」・「ふやさない」・「やっつける」-
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統計によると、昨年(平成27年)の食中毒の発生は、患者数が約22,700人、事件は約1,200件となっています(厚生労働省)。
食中毒予防は、「つけない」、「ふやさない」、「やっつける」という三原則が昔からよく知られています。


この原則を守ることができれば、食中毒の発生を未然に防止することができます。
■「つけない」とは、食中毒の原因となる微生物によって食品や食材を汚染させないこと
■「ふやさない」とは、食品や食材の上でこれら微生物を増やさないこと
■「やっつける」とは、これら微生物を殺菌すること
です。この三原則については、家庭や調理場で特に気をつけた方が良いと考えられる以下のことを頭に入れておくと、実際の生活に大変役に立ちます。

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1. 「つけない」-特にノロウイルス-
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「つけない」ことに特に気を付けるべき微生物は、「ノロウイルス」です。細菌と違ってノロウイルスは食品上では増えないため、原則のうち「つけない」が、とりわけ有効です。


ノロウイルスに人が感染すると、糞(ふん)便やおう吐物中に多量のノロウイルスが排出されます。おう吐物や、それが触れた物の処理には塩素系の殺菌剤を用いるなど、細心の注意が必要です。


調理や配膳、食事の前には、必ず入念に手を洗います。また、トイレのあとは、手、指から汚染を広げないように、トイレ周りの洗浄、消毒、そして、その後の手洗いにも細心な注意をはらいましょう。
ノロウイルスによる食中毒が多発している時は、これらは、極めて重要です。

※ 参照:食品安全委員会「ノロウイルスによる食中毒にご注意ください」
http://www.fsc.go.jp/sonota/e1_norovirus.html

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2. 「つけない」-サルモネラ属菌、腸管出血性大腸菌への対策-
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「つけない」がおろそかであっては、食品上で「ふやさない」を徹底しても、食中毒をもたらすことがあります。


かつて、イカの乾燥菓子によるサルモネラ属菌による食中毒が発生したことがあります。出荷後の乾燥した製品上で菌は多量に増殖することはできないのですが、製造工程で製品が菌で汚染されたため、生き残っていた菌が食中毒を引き起こしました。特に食品製造に携わる方々も注意が必要です。

また、動物や人の糞(ふん)便が主な汚染源である腸管出血性大腸菌については、少ない菌数(数十個)を食べただけで食中毒を起こします。他の細菌と比較し、特に「つけない」ための手洗いと汚染された調理器具などによる二次汚染の防止が重要です。

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3. 加熱で「やっつける」、加熱後の「つけない」・「ふやさない」
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食べる直前に加熱される食品は、加熱が十分であれば「やっつける」を達成できます。しかし、加熱調理後の手や指、調理器具などによる二次汚染で、しばしば食中毒が発生するので、加熱後の「つけない」にも注意が必要です。

なお、マグロ、カジキ、サバなどの赤味魚やその加工品は、保存状態が悪い場合(特に常温放置)、腐敗細菌が増加して、加熱しても無毒化しないヒスタミンという有害物質を作り出します。この場合、加熱しても食中毒を引き起こすことがありますので、速やかな冷蔵、冷凍といった「ふやさない」ための対処が、大変重要となります。

※ 参照:食品安全委員会ファクトシート「ヒスタミン(概要)」
https://www.fsc.go.jp/sonota/factsheets/140326_histamine.pdf

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4. 「ふやさない」
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「ふやさない」は、食中毒菌が増える条件(下記参照)の下に食品や食材を置かないようにすれば達成できます。増えるスピードが速い菌は、それに最適な環境下では、菌数が2時間で数千倍にも増えることを記憶に留めておいてください。

一方、条件が整わない場合は、その増殖はとてもゆっくりになります。

※食中毒細菌の増殖条件のめやす(例外もあり)


■温度:(増殖可能条件)5-45℃、(至適条件)30-40℃
■pH(ピーエイチ、ペーハー)(注1):(増殖可能条件)4.4-11.0、(至適条件)6.0-8.0
■水分活性(注2):(増殖可能条件)0.84以上、(至適条件)0.92以上

 

(注1)  水溶液の性質(酸性・アルカリ性の程度)を表す単位。中性はpH7、これより低い方を酸性、
高い方をアルカリ性と呼びます。
(注2)  微生物が増殖に利用できる水の量を表す単位。0から1で表され、みそは0.7-0.8、にぼし
は0.57-0.58、水は1。

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5. 料理の再加熱も十分に -特に前日に作った煮物やカレー-
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しっかりと加熱しても、芽胞(注1)を作ることで生き残る菌があることを覚えておいてください。このような菌によってしばしば起こる食中毒として、前日に作った煮物やカレーによるウエルシュ菌による食中毒があります。

ウエルシュ菌は、酸素のある所では増殖しにくい性質(嫌気性)がありますが、例えば、底の深い鍋で煮込むカレーなどは、鍋底に近い、酸素が少なくなりがちな部分が増殖する絶好の環境となります。


そして、生き残った熱に強いウエルシュ菌の芽胞(注1)が、一晩、室温に置かれている間に鍋の中で発芽し、増殖することによって食中毒が発生することがあります。このような料理は、翌日、食べる前に再加熱しても、加熱が不十分な場合には増殖した菌によって食中毒が引き起こされます。
前日にしっかりと加熱調理をした場合でも安心せず、具材にむらなく十分に火が通っているくらいの再加熱が必要です(注2)。

(注1)  芽胞(がほう):ウエルシュ菌やボツリヌス菌などの特定の細菌において、栄養の不足や乾燥などの発育に適さない環境でなくなると、「芽胞」と呼ばれる構造物を作り、増殖をやめて休眠状態となります。その中で菌は加熱や乾燥に耐えて生残し、増殖に適した環境下におかれると発芽し増殖します。
(注2)  具材も含めて75℃以上をめやすとして加熱。

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おわりに 
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「食中毒予防の三原則」-「つけない」・「ふやさない」・「やっつける」-をしっかり守って、健康で安全な食生活を送りましょう。

※ 本稿は、食品安全委員会季刊誌「食品安全」38号(平成26年3月号)の「委員の視点」を、e-マガ
ジン【読み物版】として加筆修正して発信しています。

~~◆食品安全委員会季刊誌「食品安全」38号も、ぜひ、ご覧ください。◆~~
https://www.fsc.go.jp/sonota/kikansi/38gou/38gou_1_8.pdf