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内閣府 食品安全委員会e-マガジン【読み物版】 あなどるなかれ食中毒~腸管出血性大腸菌やカンピロバクターを中心に~  
平成28年4月27日・28日配信
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今月のe-マガジン【読み物版】は、「食品を科学する-リスクアナリシス(分析)連続講座」の中から、「あなどるなかれ食中毒~腸管出血性大腸菌やカンピロバクターを中心に~」(平成27年10月実施)をお送りします。


熊本地方を震源とする地震により亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。

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1. 細菌とウイルスの違い、食中毒の種類
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■細菌とウイルス
食中毒を起こす原因には、大きく分けて細菌とウイルスがあり、違う性質を持っています。
「細菌」は、単細胞生物で、周りに適当な栄養と、温度、湿度などの条件が揃えば、通常、細胞分裂で増殖していきます。


一方、「ウイルス」は、遺伝情報としてのDNAやRNAとそれを包み込むたんぱく質の殻からなる粒子です。自分で増殖することができず、ヒトなど他の生物の体の中に入りんで、その相手(「宿主」(しゅくしゅ)と言います。)の細胞の持つ成分や機能を利用して自分自身を複製することによって増えていきます。


なお、ウイルスの種類ごとに、宿主や、宿主の増殖できる場所が限定されており、例えば、ノロウイルスはヒトの腸管の細胞でしか増えることはできません。


■食中毒の種類
微生物によって引き起こされる食中毒は、細菌性食中毒とウイルス性食中毒に分けられます。このうち細菌性食中毒は、健康障害を起こす仕組みによって、感染型食中毒と毒素型食中毒との2種類に分けられます。


「感染型食中毒」は、生きている微生物そのものが消化管内で作用して健康障害を生じさせるもので、腸管出血性大腸菌やカンピロバクター、サルモネラ属菌、腸炎ビブリオなどです。これらは、菌を殺せば(殺菌すれば)、安全性が高まります。


「毒素型食中毒」は、食品中で微生物によってつくりだされた毒素が作用して健康障害を引き起こすものです。この毒素型の代表的な3種類の菌が、黄色(おうしょく)ブドウ球菌、ボツリヌス菌、セレウス菌です。


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2. カンピロバクター
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カンピロバクターによる食中毒は、最近の食中毒発生原因の事件数全体の四分の一を占めています(2015(平成27)年の厚生労働省統計。総数1,202中318件。)。


■感染源
カンピロバクターによる食中毒の感染源は、食肉(特に鶏肉)、生野菜、飲料水(井戸水)等です。
主に食肉(特に鶏肉の生食)を介した食中毒が多いとされています。


■特徴
空気中では長期間生存できず(微好気性)、鶏肉等の食材中ではほとんど菌が増殖することはありません。乾燥に極めて弱く、通常の加熱料理で死滅します。


■食中毒症状
感染すると、発熱、倦怠感、頭痛、吐き気、腹痛、下痢、血便などの症状が起きます。1日~7日と潜伏期間が長いので、原因食材が判明しないことが多々あります。一般に、腸炎等の症状が重くなることはありませんが、まれに、神経疾患(ギラン・バレー症候群)を発症することもあります。


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3. 腸管出血性大腸菌
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腸管出血性大腸菌は、赤痢菌の毒素と類似の毒素をつくる大腸菌の一種です。ウシなどの家畜の腸や、ヒトの糞便中に時々見つかります。O157始め、O26、O103、O111など多くの型があります。


最近では、2011(平成23)年、O157とO111による、ユッケを原因とした事件で5名の死者が出ています(富山県を中心に患者数181名)。また、2014(平成26)年に、静岡県で発生した冷やしキュウリが原因ではないかとされる事件では、患者数510名という大規模なものとなりました。


■感染源
腸管出血性大腸菌は、動物の腸管内に生息することから、糞(ふん)尿を介して食品、飲料水を汚染します。


なお、家畜は症状が出ないことが多く、外見からは菌を保有しているか否かの判別は困難です。
我が国の場合、感染源として、牛レバー、牛肉、野菜の浅漬け、井戸水等の例が報告されています。


■症状
感染後1~10日間の潜伏期間があり、初期に感冒様症状(かぜ様症状)があり、その後、激しい腹痛と大量の新鮮血を伴う血便がみられます。発熱することは、あまりありません。ただし、実際の患者数は多くありませんが、乳幼児や高齢者で、溶血性尿毒性症候群(HUS)を併発し意識障害に至る等重症になる場合があります。


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4 食中毒対策
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カンピロバクターなどによる食中毒を防ぐためには、加熱調理により食品中の細菌を死滅させること、そして、二次汚染の防止が大切です。以下にポイントを列挙します。


■鶏肉
鶏肉は、カンピロバクター食中毒の原因食品で多いとされていますので、しっかりと加熱します(65℃以上、数分間)。生や、半生で食べることは、できるだけ避けましょう。また、他の食品、調理器具を始め容器も分けて処理や保存を行うなど、十分、二次汚染防止に気を付けます。


■牛肉
牛の体内で、腸管出血性大腸菌など病原微生物が存在するのは胃や腸の消化管で、筋肉の中は無菌です。このため、牛肉については、表面だけ焼いて中心部は生の状態(レア)を食べることができます。


しかし、ハンバーグなどの一度挽肉にしたもの、あるいはサイコロステーキなどで小さな肉を結着させたもの(成形肉)は、全体に菌が付着している可能性があることから、しっかり中心部まで加熱する必要があります。75℃で1分間以上の加熱をすれば、腸管出血性大腸菌などの病原微生物は死滅します。外側が焼けているように見えても、中が生焼けになっていることがありますので、ハンバーグや成形肉は、中心部までしっかり火を通すことが必要です。


なお、牛のレバーについては、腸管出血性大腸菌が内部に存在する可能性があることから、2012(平成24)年7月からは、食品衛生法に基づいて生食用としての販売・提供することが禁止されています。


■豚肉
豚肉には、E型肝炎ウイルス(HEV)等危害要因が存在するリスクが高いと推定されるため、食べる際は、中心部まで十分加熱しましょう。

なお、2015(平成27)年6月12日からは、HEVに感染するリスク等により、食品衛生法に基づき、豚の生肉や内臓を生食用として販売・提供することが禁止されています。


■ジビエ
鹿肉や猪肉などのジビエ(野生鳥獣の食肉)は、主にHEVの感染に注意し、十分な加熱が必要です。


■保存、調理時の注意
・保存時、そして調理時に、食肉と他の食材(野菜、果物など)とを接触させない。
・調理器具や容器は、熱湯でよく消毒し、よく乾燥させて使用します。
・バーベキューなど焼き肉をする場合は、交差汚染に注意が必要です。食肉に細菌が付着している場合、トングなどによって他の食品を汚染してしまいます。トングや取り箸などは、肉を焼くときに使うものと、焼き上がってから使うものとに分ける必要があります。


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5. まとめ
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食中毒予防の三原則は、「つけない」・「ふやさない」・「やっつける」です。さらに、食中毒予防で特
に注意するべき6つのポイントをピックアップしました。

・(ポイント1) 食品の購入: 肉・魚は肉汁などの水分がもれないように、それぞれ分けて包んで持ち帰る。

・(ポイント2) 家庭での保存: 冷蔵庫で肉・魚は汁がもれないように包んで保存。

・(ポイント3) 下準備: 生の肉や魚を切った後は、包丁やまな板を洗って熱湯をかけた後に使う。

・(ポイント4) 調理: 加熱して調理する食品は十分に加熱(カンピロバクター対策は65℃以上で数分間、腸管出血性大腸菌対策は75℃、1分以上)。

・(ポイント5) 食事: 食卓に付く前に手を洗う、食品は室温で長く放置しない。

・(ポイント6) 残った食品:残った食品はきれいな器具・皿で保存、残った食品を温め直す時も十分
加熱。


≪参考≫
・食品安全委員会;「食品を科学する―リスクアナリシス(分析)連続講座」 あなどるなかれ食中毒~腸管出血大腸菌やカンピロバクターを中心に~
https://www.fsc.go.jp/fsciis/meetingMaterial/show/kai20151008ik1

・食品安全委員会;「食中毒予防のポイント」カンピロバクターによる食中毒にご注意ください
https://www.fsc.go.jp/sonota/e1_campylo_chudoku_20160205.html

・厚生労働省;腸管出血大腸菌Q&A
http://www1.mhlw.go.jp/o-157/o157q_a/

・厚生労働省;家庭でできる食中毒予防の6つのポイント
http://www1.mhlw.go.jp/houdou/0903/h0331-1.html

・熊本地方を震源とする地震について(内閣府食品安全委員会公式Facebook:4月18日(火))
https://www.facebook.com/cao.fscj


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あなどるなかれ食中毒~腸管出血性大腸菌やカンピロバクターを中心に~ Q&A
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Q1 細菌が原因の食中毒は、汚染のおそれのある食品を加熱等して、細菌を死滅させれば、防ぐことができるのでしょうか。

Q2 最近、カンピロバクターという細菌が原因の食中毒が多いと聞きました。家庭において、有効な対策はありますか。また、腸管出血性大腸菌の対策はいかがでしょうか。

Q3 最近、牛レバーの生食が禁止されたと聞きました。それ以外の牛肉は大丈夫なのでしょうか。



Q1 細菌が原因の食中毒は、汚染のおそれのある食品を加熱等して、細菌を死滅させれば、防ぐことができるのでしょうか。
A1 生きている細菌そのものが消化管内で作用して健康障害を生じさせる「感染型食中毒」は、加熱などで殺菌すれば安全です。腸管出血性大腸菌やカンピロバクター、サルモネラ属菌、腸炎ビブリオなどによる食中毒がこれに当たります。


方、細菌によってつくりだされた毒素が作用して健康障害を引き起こす「毒素型食中毒」は、細菌自体を摂取しなくても、その毒素を摂取すれば健康障害が起こります。毒素型の代表的な3種類の菌が、黄色(おうしょく)ブドウ球菌、ボツリヌス菌、セレウス菌です。ボツリヌス菌のつくる毒素は、非常に強いものの、100℃の煮沸、調理で毒素は分解します。かたや、ブドウ球菌、セレウス菌の毒素は耐熱性の毒素で100℃の加熱調理では分解しません。例えば、夏場などで黄色ブドウ球菌の増殖したおにぎりを、表面だけ焼いて、焼おにぎりにしても毒素が残っている場合がありますので要注意です。


Q2 最近、カンピロバクターという細菌が原因の食中毒が多いと聞きました。家庭において、有効な対策はありますか。また、腸管出血性大腸菌の対策はいかがでしょうか。
A2 カンピロバクターなどによる食中毒を防ぐためには、加熱調理により食品中の細菌を死滅させることに加え、二次汚染を防止することが大切です。具体的には、次のようなポイントに気を付けることが必要です。


【鶏肉】 カンピロバクター食中毒の原因食品で多いとされる鶏肉は、しっかりと加熱します(65℃
以上、数分間)。生や、半生で食べることは、できるだけ避けましょう。また、他の食品と調理器具
や容器を分けて処理や保存を行うなど二次汚染防止に十分気を付けます。


【牛肉】 牛の体内で腸管出血性大腸菌などの病原微生物がいるのは、胃や腸の消化管で、筋肉の中は無菌です。このため、牛肉については、表面だけ焼いて中心部は生の状態(レア)を食べることができます。


しかし、ハンバーグなどの一度挽肉にしたもの、あるいはサイコロステーキなどで小さな肉を結着させたもの(成形肉)は、全体に菌が付着している可能性があることから、しっかり中心部まで加熱する必要があります。75℃で1分間以上の加熱をすれば、腸管出血性大腸菌などの病原微生物は死滅します。外側が焼けているように見えても、中が生焼けになっていることがありますので、ハンバーグや成形肉は、中心部までしっかり火を通すことが大切です。


なお、牛のレバーは、腸管出血性大腸菌が内部に存在する可能性があることから、2012(平成24)年7月からは、食品衛生法に基づいて生食用としての販売・提供することが禁止されています。


【豚肉】 豚肉については、E型肝炎ウイルス(HEV)等危害要因が存在するリスクが高いと推定さ
れるため、食べる際は、中心部まで十分加熱しましょう。

なお、2015(平成27)年6月12日からは、E型肝炎ウイルス(HEV)に感染するリスク等により、食
品衛生法に基づき、豚の生肉や内臓を生食用として販売・提供することが禁止されています。


【ジビエ】 鹿肉や猪肉などのジビエ(野生鳥獣の食肉)は、主にHEVの感染のリスク等に注意し、
十分な加熱が必要です。


【保存、調理時の注意】
・調理器具や容器は、熱湯でよく消毒し、よく乾燥させて使用します。
・保存時あるいは調理時に、食肉と他の食材(野菜、果物など)とを接触させない。
・バーベキューなどの焼き肉の場合は、交差汚染に注意が必要です。食肉に細菌が付着している場合、トングなどによって他の食品を汚染してしまいます。トングや取り箸などは、肉を焼くときに使うものと、焼き上がってから使うものとに分けることが必要です。


Q3 最近、牛レバーの生食が禁止されたと聞きました。それ以外の牛肉は大丈夫なのでしょうか。
A3 2012(平成24)年7月に、腸管出血性大腸菌が見つかったこと等により、牛レバーを生食用として販売・提供することが食品衛生法により禁止されています。一方で、牛の体内で病原微生物がいるのは、胃や腸の消化管であり、筋肉の中は無菌ですから、牛肉については、表面だけ焼いて中心部は生の状態(レア)を食べることができます。


ただし、一度挽肉にしたもの、あるいは小さな肉を結着させたもの(成形肉)は、しっかり加熱する必要があります。
 
≪参考≫
・食品安全委員会;「食品を科学する―リスクアナリシス(分析)連続講座」 あなどるなかれ食中毒
~腸管出血大腸菌やカンピロバクターを中心に~
https://www.fsc.go.jp/fsciis/meetingMaterial/show/kai20151008ik1

・食品安全委員会;「食中毒予防のポイント」カンピロバクターによる食中毒にご注意ください
https://www.fsc.go.jp/sonota/e1_campylo_chudoku_20160205.html

・厚生労働省;腸管出血大腸菌Q&A
http://www1.mhlw.go.jp/o-157/o157q_a/