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内閣府 食品安全委員会e-マガジン【読み物版】 食べ物のおいしさと安全・安心~新鮮なものは本当に安全?~ 平成28年4月7日・8日配信
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今月のe-マガジン【読み物版】は、「食品を科学する-リスクアナリシス(分析)連続講座」の中から、「食べ物のおいしさと安全・安心~新鮮なものは本当に安全?~」(平成27年9月)についてお送りします。


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1. 調理することは安全のため?
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「新鮮=安全でおいしくて栄養価が高い」と思われていますが、本当でしょうか。
新鮮な食品でも、食中毒菌などの微生物が付着していることがあります。また、おいしくするためには、熟成させることが必要なものもあります。


食べ物の調理には、食材を「おいしくする」とともに「安全に食べられるようにする」という機能があるのです。調理には、「非加熱調理」、「加熱調理」、「調味」の3つがあります。

「非加熱調理」は、食べやすい大きさに切ることなどですが、例えばじゃがいもの皮や芽を取り除くことは、これらに含まれている有毒物質のソラニンを除去することになります。


「加熱調理」は、食材を熱で柔らかくしたり、好ましい香りや色をつけたりしますが、同時に、食中毒の原因になる微生物を死滅させ、酵素の働きを失わせて(※)食品の変質を防ぎます。

「調味」によっておいしさが増すのですが、塩漬けや酢漬けなど調味料の添加により保存性を高める効果がある場合があります。
このように、調理することは安全性を向上させる面があるのです。


※酵素はたんぱく質なので、加熱すると変性して本来の働きをしなくなります。


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2. 野菜のおいしさと安全
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野菜は、新鮮さが重視されることが多い食材です。旨味や甘味の成分は、常温保存では次第になくなっていきます。そこで、生産地では収穫直後に予冷し、低温で保存・流通することで、これらの成分の減少を遅らせています。


野菜は、特に外側にはいろいろな細菌が付着しており、食中毒の原因となるものもあります。野菜を流水で洗うと、細菌は減りますがゼロにはなりません。また、野菜は切ったところから細菌の増殖が始まります。そのまま食べる場合は、なるべく早く食べることが大切です。


野菜は概ね90℃以上で加熱すると、食べるのにちょうどいい柔らかさになりますが、食中毒の原因となる細菌の多くが死滅する温度は大体80℃くらいです。野菜が柔らかくなっていれば中心は90℃を超えており、安全と考えられます。


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3. 魚のおいしさと安全
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私たちは、魚の鮮度をエラが鮮紅色かどうか、腹部がしまっているかなどで見分けますが、これは、魚のエラや内臓には、海水や淡水中の細菌が多く付着しており、変化が速いためです。


サバなどの青魚にはヒスチジンというアミノ酸が多く含まれており、常温で放置するとヒスタミンが生成し、アレルギー様症状を引き起こします。日本では毎年100人以上の患者が確認されています。


魚を常温に置かない、鮮度が低下したものは食べない、唇や舌に刺激を感じた場合は食べないことが大切です。
寄生虫であるアニサキスは激しい腹痛などを起こすのですが、サバをはじめ、イワシ、サケなどの主に内臓に寄生しています。60℃で1分、70℃以上で瞬時に、マイナス20℃の24時間以上の冷凍で死滅しますが、酢漬けや塩漬けでは死にません。


日本では火を通さずに安全に鮮魚介類を食べる伝統的な方法がいくつかあります。かつおの「たたき」は、刺身用のサク(ブロック状の切り身)にしたものを表面だけ加熱するのですが、表面のたんぱく質が熱で凝固するので、調味料が浸透しやすくなります。


同時に、表面の微生物が死滅するので安全性が増します。しめさばは、サバを塩で締めてから酢に漬けるのですが、pHが4から5にまでなるので、表面のたんぱく質が酢で凝固し、腸炎ビブリオ菌はほぼ死滅します。ただし、アニサキス対策にはなりません。


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4. 肉のおいしさと安全
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牛の体内で細菌やウイルスがいるのは、胃や腸の消化管で、生きている健康な牛の筋肉の中は無菌です。

ですから表面だけ焼いて中心部は生の状態(レア)を食べることができます。


しかし、ハンバーグなど一度挽肉にしたものは全体に菌が付着している可能性があります。中心部まで75℃で1分間以上の加熱をすれば、腸管出血性大腸菌などの病原微生物は死滅しますが、一見、外側が焼けていても、中が生焼けになっていることがあるので、中心部までしっかり火を通すことが大切です。


そして、サイコロステーキなどは、小さな肉を結着させたもの(成形肉)がありますので、よく加熱して食べましょう。

豚肉は、筋肉内部もE型肝炎ウイルスなどで汚染されている可能性があるため、生食用として販売することは禁止されています。


また、食肉は、と畜直後は筋肉が硬直することから、おいしくありません。その後、徐々に柔らかくなり、様々な酵素が働いてタンパク質が分解され遊離アミノ酸などが増えてうま味が増します。この過程が熟成で、鶏で1~2日、豚で5日、牛では10~14日です。最近は、更に熟成期間を長くしてうま味や柔らかさを強調した牛肉が販売されています。


さて、食肉は食べやすくしたり、おいしくするために加熱することが多いのですが、十分な加熱は食中毒の原因となる微生物を死滅させることから、安全の面でも重要です。
焼き肉の場合は交差汚染に注意が必要です。焼き肉用の肉に付着している細菌が、トングなどによって他の食品に着いてしまいます。トングや取り箸などは、肉を焼くときに使うものと、焼き上がってから取り分けるものとを分けることが必要です。


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5. まとめ
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流通・販売されている生野菜、魚介類や食肉は、例えば衛生的な作業環境の確保や的確な殺菌剤の使用など適切な衛生管理が行われているので、早めに食べれば安全です。

そして、よりおいしくするのが調理ですが、同時に加熱や酸性にすることによって、食中毒菌を死滅させたり、活動を抑えて保存性が増すなど、安全面でも重要な役割を担っています。


≪参考≫
・食品安全委員会;「平成27年度 食品を科学する―リスクアナリシス(分析)連続講座」食べ物のおいしさと安全・安心~新鮮なものは本当に安全?~
http://www.fsc.go.jp/fsciis/meetingMaterial/show/kai20150903ik1


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新鮮なものは本当に安全? Q&A
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Q1 食中毒の原因となる微生物にはどんなものがあり、死滅させるための条件は違うのですか。
Q2 馬肉のサルコシスティス・フェアリーや、ホタルイカの旋尾線虫(せんびせんちゅう)について教えてください。
Q3 青魚は、DHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)が多く、健康によいと聞きましたが本当でしょうか?
Q4 鶏卵、牛乳は新鮮なほど安全だと聞きました。賞味期限が迫っているものは避けた方がよいでしょうか?


Q1 食中毒の原因となる微生物にはどんなものがあり、死滅させるための条件は違うのですか。
A1 カンピロバクター(カンピロバクター・ジェジュニ・コリ)は、もともとは家畜や家禽の腸内に生息していますが、生野菜を含めて多くの食品から検出されており、日本における食中毒発生件数では最も多くなっています。症状は下痢や腹痛などです。65℃数分の加熱で死滅します。


サルモネラ属菌は、動物の腸管や自然界に生息しています。症状は腹痛や下痢などです。75℃1分の加熱で死滅します。腸炎ビブリオは、海水や魚介類から検出されるのですが、65℃1分の加熱で死滅します。ノロウイルスは、少ない菌数でも感染し近年、発生件数と患者数が多い。85~90℃90秒の加熱で死滅します。リステリア菌は欧米では未殺菌の乳製品などから検出されており、65℃1分の加熱で死滅します(4℃以下でも増殖します)。腸管出血性大腸菌は動物の腸管内に生息しており、症状は激しい腹痛や血便などです。75℃1分の加熱で死滅します。E型肝炎ウイルスは豚肉やジビエに感染していることがあり、症状は倦怠感や肝機能低下などです。


Q2 馬肉のサルコシスティス・フェアリーや、ホタルイカの旋尾線虫(せんびせんちゅう)について教えてください。
A2 馬肉は、サルコシスティス・フェアリーによる食中毒事例があることから、生食用はマイナス20℃(中心温度)で48時間以上冷凍処理することになっています。
また、旋尾線虫は、ホタルイカの1~6%に寄生しているといわれています。摂食後腹痛が起こったり、2週間前後で皮疹や水泡を作ることがあります。1995年から2003年に49例の報告があったことから、

厚生労働省は、

(1)生食用についてはマイナス30℃で4日間以上凍結するとともに、内臓を除去する。

(2)生食用以外は加熱処理(沸騰水中で30秒保持又は中心温度60℃以上)

を指導しています。


Q3 青魚は、DHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)が多く、健康によいと聞きましたが本当でしょうか?
A3 DHAやEPAは、一般に青魚に多い高度不飽和脂肪酸であり、血管障害の予防などを抑止する作用があるとされています。しかし、酸化しやすく、悪臭や食中毒の原因となることがありますので、新鮮なうちに食べることが必要です。また、過剰摂取のおそれがありますので、安易にサプリメントで摂ることは要注意です。


Q4 鶏卵、牛乳は新鮮なほど安全だと聞きました。賞味期限が迫っているものは避けた方がよいでしょうか?
A4 鶏卵と牛乳については、生産、加工から流通の各段階で、さまざまな衛生上の基準等をクリアしたものが店頭に並んでおり、賞味期限内であればおいしく食べることができます。

ただし、卵は、生で食べる場合は、できるだけ新鮮なうちに食べましょう。割れてしまったり、いったん割った卵は、急速に腐敗が進みますので、すぐに食べましょう。なお、卵の冷蔵庫での保管は、温度が変化しやすい扉の部分ではなく、中の本体に保管しましょう。

そして、パックを開けてしまった牛乳は、冷蔵庫に保管していたとしても、できるだけ早めに消費することが大切です。


≪参考≫
・食品安全委員会;「平成27年度 食品を科学する―リスクアナリシス(分析)連続講座」食べ物のおいしさと安全・安心~新鮮なものは本当に安全?~
http://www.fsc.go.jp/fsciis/meetingMaterial/show/kai20150903ik1