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食品安全委員会e-マガジン【読み物版】

[加熱時に生じるアクリルアミド その1] 平成27年8月28日配信 
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今回のe-マガジン【読み物版】は、加熱時に生じるアクリルアミドについてです。

アクリルアミドは、工業用品として広く使われるポリアクリルアミドの原料ですが、2002年、食品に含まれていることが明らかになりました。それ以来、各国は、食品にどれくらい含まれているのか、どうすれば減らすことができるのかなどに取り組んでいます。


今号では、このアクリルアミドに関する基本的な情報、そして、次号では、アクリルアミドに関するQ&Aと化学物質・汚染物質専門調査会座長の寄稿を予定しています。


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1.アクリルアミドってどんなもの?
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■どうして食品からアクリルアミドが見つかったか
1997年、スウェーデンのトンネル工事で水漏れが発生し、アクリルアミドが含まれる充填剤が大量に使われました。

すると、工事現場近くの河川の魚が死ぬようになり、また、川の水を飲んだ牛が麻痺を起こすなどしたことから、トンネル工事の作業員の健康状態を調べたところ、作業員の多くがアクリルアミドを呼吸や皮膚から大量に摂取・吸収していることが判明しました。この時、比較のために調査した汚染地域外の住民からも、血液中から低濃度のアクリルアミドが検出されたのです。

このことから、トンネル工事による環境汚染に由来するものだけではなく、何か共通の汚染源が存在する可能性が考えられました。
更なる研究により、加熱した飼料とそれを食べた動物の体内からアクリルアミドが検出されたことから、加熱した食品が原因ではないかと疑われましたが、どうして加熱した食品にアクリルアミドが生成するのかは「なぞ」でした。


■どうしてアクリルアミドができるのか
そこで、スウェーデン政府はストックホルム大学と共同研究を行い、2002年4月、でんぷんなどの炭水化物を多く含む食材(じゃがいもなど)を高温で加熱するとアクリルアミドが生成されることを発表しました。その後、食品安全の新しい問題として各国が研究に取り組んだ結果、高温調理によって、アミノ酸の一種であるアスパラギンと、ブドウ糖や果糖などの還元糖が反応してアクリルアミドが生成されることが明らかになるとともに、多くの食品に含まれていることが分かってきました。


■食品に含まれるアクリルアミド
アクリルアミドが、食品にどれくらい含まれているかの調査(含有実態調査)は、各国で行われています。
日本では、農林水産省が中心となって調査が行われており、フライドポテト、ポテトスナック、ビスケット類など多くの食品にアクリルアミドが含まれていることが分かりました。また、EFSA(欧州食品安全機関)は、コーヒーやパンにも含まれていると公表しています。さらに、家庭での調理でも、例えば、焼き菓子、トーストしたパン、炒め調理などでアクリルアミドができることが分かっています。

なお、アクリルアミドは、120℃以下ではほとんど発生しないので、我が国の主食である米飯は、炭水化物を多く含む食品ですが、アクリルアミドをわずかしか含んでいないことが分かっています。一方、我が国においては、食品関連事業者が自主的にアクリルアミドの低減に取り組んでおり、例えばポテトチップスでは、ここ数年間でアクリルアミド濃度の中央値及び平均値が4~6割減少しています。


■工業用品の原料として用いられるアクリルアミド
アクリルアミドは、白色で無臭の固体で、接着剤や塗料などに用いられるポリアクリルアミドの原料です。IARC(国際がん研究機関)は、アクリルアミドを、「ヒトに対しておそらく発がん性がある」と分類しています。日本では、「劇物」(※)として指定されています。


※ 「毒物及び劇物取締法」(昭和25年12月28日法律第303号)に基づき、医薬品及び医薬部外品以外のもので、動物又は人に対して毒性が高いとされる物質


■加熱時に生じるアクリルアミドのリスク評価
国際的なリスク評価機関であるJECFA(FAO(国連食糧農業機関)/WHO(世界保健機関)合同食品加物専門家会議)やEFSAは、発がん影響に関する懸念があり、食品中に含まれるアクリルアミドの量を低減するために適切な努力を続けるべき、などとしています。
食品安全委員会では、2011年3月、「加熱時に生じるアクリルアミド」について、「自ら評価」(※)を行うことを決定し、化学物質・汚染物質専門調査会で検討が行われています。


※ 厚生労働省や農林水産省などのリスク管理機関からの要請を受けて行うのではなく、食品安全委員会がリスク評価の対象案件を自ら選定して行うリスク評価。


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2.食品中のアクリルアミドを減らすためには
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■食品中のアクリルアミドを減らす
加熱調理した食品からアクリルアミドを完全に取り除くことはできません。しかし、アクリルアミドによる健康被害の発生を未然に防ぐには、食品のアクリルアミド濃度をできるだけ低くし、食品由来の摂取量を減らすことが重要であるという観点から、農林水産省は、食品関連事業者向けに「食品中のアクリルアミドを低減するための指針」を作成しています。

この指針には、例えば、還元糖濃度の低いじゃがいもを使用する、低温で保管すると還元糖が増えるので適切な温度で保管する、アクリルアミド濃度ができるだけ低くなるように最適な加熱温度と加熱時間を設定するなどの低減対策が示されています。

なお、家庭においては、食材を長時間揚げたり焼いたり炒めたりしないこと、また、じゃがいもは冷蔵庫ではなく冷暗所で保管することなどが大切です。


■バランスよく食べる
アクリルアミドは、食品を加熱することによって生成します。そのため、人類は、食物を油で揚げるなど高温で調理するようになってから、食品中に微量に含まれているアクリルアミドを摂ってきたと考えられます。
一般的に、食品には、アクリルアミドのみならず、カビ毒であるアフラトキシン、重金属のカドミウムやヒ素、じゃがいものソラニン等の様々な有害物質が微量に含まれていることがあります。

また、栄養素の過剰又は不足によっても、健康への悪影響は増加します。アクリルアミドの摂取をゼロにすることは困難ですが、食品から摂取するアクリルアミドを減らすためには、特定の食品に偏った食生活にならないように気を付け、バランスのとれた食生活を送ることが大切です。

 
(参考)
・ファクトシート「加工食品中のアクリルアミド」
http://www.fsc.go.jp/sonota/acrylamide-food170620.pdf
・季刊誌vol.14 アクリルアミドに関するファクトシートの概要について
http://www.fsc.go.jp/sonota/14gou_3.pdf
・EFSA アクリルアミドとその低減方法に関するインフォグラフィックス
 (ピックアップ海外情報 平成26年10月7日報告)
http://www.fsc.go.jp/pickup_overseasinfo/pickup_overseasinfo.html
・EFSA 食品中のアクリルアミドに関する科学的意見書を公表
http://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu04270050149
・農林水産省 食品中のアクリルアミドに関する情報
http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/acryl_amide/index.html
・農林水産省 食品関連事業者向け「食品中のアクリルアミドを低減するための指針」
http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/acryl_amide/a_gl/sisin.html
・厚生労働省 加工食品中アクリルアミドに関するQ&A
http://www.mhlw.go.jp/topics/2002/11/tp1101-1.html