ミッドセンチュリーモダンの家
、、、と聞くと、
”ミッドセンチュリーモダンのインテリアでコーディネートされた家”
というイメージが浮かぶかもしれません。
でも、このミッドセンチュリーモダン、というデザインスタイルを表す言葉には、インテリアスタイル以外に、建築スタイルも含まれるんです。
カリフォルニアのパームスプリングスは、ミッドセンチュリーモダンスタイルの住宅が多いことで有名です。
アメリカでは、ミッドセンチュリーモダンの住宅が、戦後の住宅需要のため数多く建設されました。
そして、アメリカ経済の繁栄により、 ニューヨークでもモダンな家具が備わった、新しい技術を使用した住宅がもとめられるようになります。
特に、マンハッタン郊外、コネチカット州のニューカナーン (New Canaan) とその周辺の地域は、ミッドセンチュリーモダン住宅のメッカとして知られています。
1940年代から50年代にかけて、「ハーバード・ファイブ (Harvard 5) 」と総称される建築家グループがニューカナーンに定住し、
彼らと同じ志を持った建築家たちも賛同し、100軒近くのミッドセンチュリーモダンの住宅が建てられました。
ハーバード・ファイブは、1940年代にコネチカット州ニューカナーンに居を構えたハーバード大学デザイン大学院出身の建築家で構成された建築家のグループです。
同大学院の講師であったマルセル・ブロイヤーと、その学生であったフィリップ・ジョンソンら5人の建築家らがハーバード・ファイブのメンバーです。
マルセル・ブロイヤー (Marcel Breuer)
フィリップ・ジョンソン(Phillip Johnson)
当時ニューヨークで活躍していた彼らが近代建築の実験場として選んだのが、マンハッタン郊外のニューカナーンでした。
1940年代以前、ニューカナーンは、18世紀に建設されたコロニアル様式の住宅が立ち並ぶ、伝統的なニューイングランドの町でした。
しかし、緩やかなゾーニング規制と手頃な広さの土地を持つニューカナーンは、当時実験的だった建築様式を試そうとする彼らに積極的に土地を提供したのです。
彼らはそれまでの華美な装飾に代わって機能性を重視し、伝統的な建築様式に対するアンチテーゼとして、自身や顧客らのために住宅建設を開始しました。
そんな彼らがニューカナーンの地にデザインしたのは、ミッドセンチュリーモダン住宅のなかでもヨーロッパのモダニズムの哲学を継承するインターナショナルスタイル。
そのコンセプトは、シカゴ出身の建築家ルイス・サリヴァンによる、近代建築理論の根源を表す有名な言葉、
「形は機能に従う」
“Form Follows Function”
という現代デザインの基本理念を踏襲しています。
インターナショナルスタイルは、ニューヨーク近代美術館 (MOMA)のキュレーターでハーバード・ファイブのひとり、
フィリップジョンソンが「モダン・アーキテクチャー:インターナショナル展 (Modern Architecture : International Exhibition)」でモダニズムを源流とする建築をインターナショナルスタイルと定義したことから始まります。
モダン・アーキテクチャーインターナショナル展覧会 / ニューヨーク近代美術館 (MOMA)1932年
Credit:MOMA
この展覧会で、 ル・コルビュジエ (Le Corbusier) が設計したパリ郊外にある住宅のサヴォア邸と、
サヴォア邸/ Villa Savoye (1931年竣工)
ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエ (Ludwig Mies van der Rohe) 設計による、当時のチェコスロバキアに建てられたトゥーゲントハット邸を含む15カ国37人の現代建築家のモダニズム建築が、インターナショナルスタイルと定義されました。
トゥーゲントハット邸 / Vila Tugendhat (1930年竣工)
Credit:RAKO
これらの住宅に共通する特徴は、シンプルなフォルムと直線による構成、装飾の排除、最小限の柱で構成された空間です。
そして、ガラス、スチール、コンクリートなどの工業化された大量生産技術が使用されています。
フィリップジョンソンはこの展覧会で、国や人種の違いを超えて、今後はこのようなデザインが国際的に共有され、近代建築の規格となることを提示したのです。
このことをきっかけに、インターナショナル・スタイルという、類型化されたデザイン住宅が世界中に普及していきました。
このように、ヨーロッパで始まったモダニズム建築が、1930年代にニューヨークで国際的な普遍性・汎用性を掲げて定義されたインターナショナルスタイル。
まさに、今日私たちが住んでいる家のベースとなるデザインが’確立されたことになります。
第二次戦後の1950年~1970年代になると、さらにすっきりとした直線ラインと床から天井までの広大なガラス面で構成されたデザインになり、
自然との一体感が反映された、インターナショナルスタイルが作られるようになります。
ハーバード・ファイブのひとり、フィリップ・ジョンソンの自邸だった、ニューカナーンにある「グラスハウス 」
ニューカナーンのインターナショナルスタイルのシンボル的な住宅で、現在は一般に公開されています。
グラスハウス / The Glass House, New Canaan, Connecticut (1949年竣工)
Credit: Wikipedia
シカゴ郊外にある、ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエ (Ludwig Mies van der Rohe) のファンズワース邸。同じく一般公開されています。
ファンズワース邸 / The Farnsworth House, Plano, Illinois (1951年竣工)
Credit: Behance
このファンズワース邸は、インターナショナルスタイル住宅の最高傑作、且つインターナショナル住宅の完成形としても広く知られています。
ミースはこの建築において、インターナショナルスタイルの理念を最大限に具現化し、モダニズム建築のミニマリズムの概念を実現させました。
それは、スチールやガラスといった素材を用いてインテリアの「骨格」を作り、
空間を柱や壁で遮ることなく、自由に使えるようにしオープンスペースとシンプルさを最大限に強調しました。
また、自然を取り込み共生することによって、自然のなかに佇むかのような住宅を実現したのです。
ミースはこの究極のミニマルなデザイン住宅を、彼が用い続けた有名なことば、
「少ないことは豊かなことである」
Less is More
という理念のもとに完成させました。
これは、シンプルなデザインを追求することによって、より美しく豊かな空間が生まれるという、彼の建築家としての信念を表しています。
この言葉は、建築のみならずあらゆるデザイン、ひいては現代の私たちのライフスタイルや価値観にも通じる概念なのではないでしょうか。
ミースがデザインしたミッドセンチュリーモダン家具であるバルセロナチェアは、”Less is More” を象徴するような作品です
ニューヨークのインテリアショップ、ノル(Koll)で販売されています
このように、ヨーロッパのモダニズムの哲学から始り、アメリカ・ニューヨークで定義され、ミースのファンファーズ邸で完成したインターナショナルスタイルの住宅。
コンクリート、ガラス、スチールが主役のモダンなデザインと、木やフィールドストーンなどの有機的な素材の使用。
実用性を重視し、それぞれの目的に応じてデザインされた空間。
ミニマリズムを受け入れ、過剰な装飾を排除する。
インターナショナルスタイルの手法で建てられた住宅が、今や世界中で私たちの身近な住まいにも見られるようになったのです。
ニューカナーンを中心にニューヨーク郊外の地には、それらのルーツとなった住宅が100軒以上建てられ、
そのうちの約90軒ほどが現存し、歴史的建造物として指定されながら現在も売買され、住人たちによって大切に管理されています。
緑豊かな郊外で、モダニズムや自然に敬意を表したインターナショナルスタイルの近代住宅。
それらはミッドセンチュリー期の住宅でありながら、まるで周囲の自然の一部であるかのように現在に至っています。
そんな近代建築の宝石のような住まいが多く存在する、ハーバード・ファイブやその同志たちによって建てられた、ニューヨーク郊外の住宅の数々。
それらのほんの一部を見ていきたいと思います。
The DeSilver House by Harrison DeSilver and John Black Leein in 1961, New Canaan, Connecticut
Credit: dwell
The Tree House, by Hugh Smallen in 1964, New Canaan, Connecticut
Credit:AD
The Tatum House by Hugh Smallen in 1962, New Canaan, Connecticut
Credit: architectureforsale
The House by Marcel Breuer in 1951, New Canaan, Connecticut
Credit 6sqt
The House by John Johansen in 1960, Redding, Connecticut
Credit: WSJ
Stillman House by Marcel Breuer in 1950, Litchfield, Connecticut
Credit: AD
Neumann House by Marcel Breuerin 1953, In Croton-on-Hudson, New York
Credit: AD
The house by Arthur Witthoefft in 1957, Armonk, New York
Credit: dwell, Architectural Homes NY
The Wiley House, by Phillip Johnson in 1953, New Canaan, Connecticut
Credit: WSJ, dwell, Homedesign
Gerald luss house by Gerald Luss in 1955, Ossining, New York
Credit: Gerald luss house