訴訟の取り組みについて~三つのエポック

           弁護士 笹山尚人(東京法律事務所)


1、提訴への経緯

 キヤノン争議の提訴は、2009年6月3日に行った。

 組合が前年12月に都労委での不当労働行為救済申立を行っていたにもかかわらず、キヤノンは2009年に入ると、宇都宮光学機器事業所を休業とし、労働者には雇用の保障をしない旨言及していた。弁護団では、雇用を守るには、都労委のたたかいだけでは不十分と判断して提訴に踏み切るべきという議論をした。当時、2008年4月の松下PDP争議の大阪高裁判決に勇気をもらって裁判に踏み切るケースが続出していたこともあった。しかし、問題は、組合が訴訟に立ち上がるかどうかだった。

ここで阿久津さんが訴訟に立ち上がる決意をしたことが、本争議の一つのエポックであったと思う。

 阿久津さんを中心に、5名の原告団が組織され、提訴となった。

2、提訴の概要

 提訴で裁判所に判断を求めたのは、原告ら5名の、キヤノンにおける期間の定めのない雇用の地位確認と、賃金請求、及び偽装請負で働かせてきたこと及び解雇したことに対する損害賠償の請求、である。

 本件の特徴は、通常この種の訴訟では被告には派遣会社をも含めるが、本件では被告をキヤノン一本に絞り、雇用の確保を強く打ち出したこと。

 今ひとつは、偽装請負が2000年からという長期間継続され、キヤノンがその糊塗のために一度派遣にしてまた請負に戻すという姑息な手法を用いたことを前面に押し出したこと、であろう。

3、キヤノンの応訴内容とそれへの反撃

 折しも2009年12月に松下PDP事件で最高裁判決が出た。キヤノンは全面的にこれに依拠し、キヤノンが雇用責任を負うことはないと反論した。また、事実面では、第二次請負期間の偽装性を否定した。

 弁護団では、松下PDP最高裁判決に対する全面批判の準備書面を準備した。この不可解な判決の分析と、こんな判決でキヤノンで行われたあくどい搾取の事実を隠蔽して良いのか、という書面の準備が、弁護団にとっては奔争議への確信を深める機会になったと思う。これがエポックの二番目。

 この論法への反撃として有効だったのが、文書提出命令の取り組みだった。栃木労働局から提出された諸資料は、第二次請負期間における偽装請負を余すところなく証明した。この点がエポックの三番目であった。

4、個人的には

 主任としてたくさんの書面を担当し、苦労もしたが、たくさん勉強させてもらったという思いである。

 それと、キヤノンが、事実面でも法律面でもがっぷり四つの主張をし、証拠を提出してきたのは、運動がしっかりあったからだと思っている。運動と訴訟の連携こそが勝利の鍵だと改めて確信させてもらった。

 最後に、阿久津さんには、心の底から敬意を表したい。弁護団会議のほかにも、他の争議支援、国会への要請など、まさに獅子奮迅の活躍だった。こういう人がいてはじめて、歴史は前進するのだと思う。

                            以 上