祖母がしつこく抱っこされなさいというので、私は仕方なく曽祖母の膝に乗った。
曽祖母は私をぎゅーっと抱きしめた。
左の頬が、シワシワの肌に押し付けられて、気持ちが悪かった。
明治生まれの人間らしく、曽祖母は着物を着ていた。
ダラリと前がはだけ、シワシワの肌が露出している。
私は左手で、目の前にある紐のような何かを握って、掌を開いた。
シワシワの干しぶどうのような物体が乗っていた。
ここで数秒の、インターバルがある。
何だろう、これは、丸い形をしているような・・・
ぼんやりと考えて、それが乳首だと思い当たった時、その時の、恐怖。
私は、その物体をはねのけた。
萎んだ乳房の先の乳首は180度折れ曲り、シワシワの胸板に当たって、ダラリと元の位置に落ちた。
膝から飛び降りて次の間に逃げ、人から見えないところまで走った。
何だか分からないけど、人間はシワシワになるのだ。
胸が潰れそうで、何回も深いため息を吐いているのに、大人たちは困った子ねぇと笑い声をあげている。
そのやるせなさ。
今でも左手の手のひらを見ると、曽祖母を思い出す。
長らくアサノという名前だと思われていたが、それは通称で、本名はサノと言ったらしい。
カタカナがモダンな時代だったのだろうか。
(私の現在の感慨)
アサノちゃんとおきのんしゃんがじゃれあっているところを想像してみる。
人生初の恐怖を感じた子供が、そんなことを考えている。
アサノちゃん、あの時はごめんなさい。
それにしても、うちの大人たちの無神経なこと。
3歳の子供には、感情がないと思っていたのだろうか?
すでに、無意識に違和感を感じていた私がいる。