啓蟄の頃。

小さな男の子がザリガニに指をはさまれるという、お約束の事件がおきました。

こんなときは、あわてずさわがず
おしりを地面につけながら降ろしてやると
ザリガニは安心してハサミを開く

…はずなのですが

よほど怖くて動揺したのか
はたまた虫のいどころでも悪かったのか
ザリガニ君たら
両方のハサミで思いっきりきゅーっとはさんだままです。

男の子は「いたいイタイ!!」となみだ目になっています。

こうなったら力づくでハサミを開くしかないと手をのばした私に

「はさまれちゃうよ。」


なみだ目になるほど痛いはずなのに
その小さな体で大人の私を気づかってくれる。

どこでそんな思いやりを学びましたか。

私は、風邪をひいたら他人にうつしてでもいいから早く楽になりたいと思うような人間です。

ずっとそばにいて君の成長を見つめていたら
私ももう少し優しくなれるでしょうか。


件のザリガニ君は、しばらくするとハサミを開きました。
気がすんだのかそれとも疲れたのか。
最初から最後までザリガニ主導でこの事件は幕を閉じました。


件の男の子は今日も明日もそのまた明日も
ザリガニに挟まれたり
水路に足をつっこんだり
草むらに潜入してひっつき虫だらけになったり
土手をすべりおりて服をビリビリにしたり…

もれなくお母さんの「いいかげんにしなさい!」というオチがついてくるというのに。

そんな君に私は弱いぞ。

こりない日々を積みかさねて
オモロい大人になってちょうだい。



大好き。