やらないことリストをつくる ――最初の引き算

背負いすぎをやめるための第一歩は、「やらないことリスト」を作ることです。

 

私自身、以前は「仕事も家族も完璧にこなさなければならない」と思い込み、毎日やるべきことが雪だるま式に増えていきました。仕事の締め切り、子どもの世話、家事、人づきあい。どれも大切なことだからと全部抱えた結果、常に焦りと疲労を抱えていました。しかし、実際にはどれも中途半端になり、満足感も達成感も得られない――そんな悪循環に陥っていたのです。

 

心理学的に見ても、これは無理のない話です。脳科学では「私たちの脳はマルチタスクに弱い」と知られています。複数のことを同時にこなそうとすると、脳はタスクを切り替えるたびにエネルギーを消費し、集中力が分散してしまいます。これを認知負荷理論と呼びますが、抱えることが多すぎると、それだけで脳に余計な負担がかかり、疲労やストレスが増すのです。

 

だからこそ大切なのは、「やることを増やすこと」ではなく、「やらないことを決めること」。つまり、引き算の発想です。

 

ただし、やらないことリストは単なる「嫌なことをやめたいリスト」ではありません。ポイントは、自分にとっての優先順位を明確にすることです。

 

具体的には――

  • 自分の価値観や目標に沿わないこと
     
  • 心身に過剰な負荷をかけること
     
  • 他人の期待に過剰に応えようとすること
     

こうしたことを書き出してみるのです。

 

私はノートに「やらないこと」を一つずつ書き出してみました。たとえば、仕事では「全部のメールに即返信しない」、家族では「子どもの気持ちをすべて読み取ろうとしない」、プライベートでは「気乗りしない誘いに無理して参加しない」といった具合です。

 

すると不思議なことに、ただ紙に書き出すだけで気持ちが軽くなりました。頭の中で曖昧に「やらなきゃ」と背負っていたものを客観的に見られることで、「これは本当に自分がやるべきことなのか?」と一歩引いて考えられるようになったのです。

 

やらないことリストは、言い換えれば自分のエネルギーの使い方を意図的に選ぶツールです。何を減らすかを決めることで、本当に大事にしたいことにエネルギーを注げるようになる。その第一歩が、背負いすぎを手放し、軽やかさを取り戻す道につながります。

 

 

「やらないことリスト」のつくり方

私が最初にやらないことリストをつくったとき、思い切って自分の日常を振り返ってみました。

 

仕事では「同僚の小さな不満まで吸収しない」「メールに即レスしない」。

家族では「子どもの小さな困難をすべて自分が解決しようとしない」。

この3つを書いただけでも、驚くほど心が軽くなったのを覚えています。

やらないことリストはシンプルですが、つくり方のポイントを押さえることで効果が大きく変わります。

 

 

1. すべて書き出す

まずは、頭の中にある「やらなきゃ」を一度すべて紙に書き出します。

これは脳にたまっているタスクを「外に出す」作業です。頭の中で抱えているだけだと、必要以上に大きなプレッシャーとして感じてしまいます。

心理学的には、この状態を「ツァイガルニク効果」と呼びます。やりかけのことや未完了のことほど記憶に残りやすく、無意識にエネルギーを奪うのです。書き出すことで、その負担を脳から切り離すことができます。

 

2. 優先順位をつける

次に、書き出したことを「本当に必要なこと」と「手放してよいこと」に分けます。

ここでは「やらない」と決める勇気が必要です。

たとえば私の場合、「会議で必ず発言しなければならない」は手放しました。必要なときに意見を出せば十分だからです。逆に「家族と一日一回はちゃんと話す時間を持つ」は大切なので残しました。

こうして「残すもの」と「やらないもの」を振り分けることで、自分の中の優先順位がクリアになります。

 

3. 自分に許可を出す

最後に大事なのは、「やらない」と決めたことを後悔しないと自分に許可を出すことです。

「断ったら嫌われるかも」「やらないと怠けてると思われるかも」――そんな罪悪感が出てきますが、それは自然な反応です。

脳科学的に言えば、これを「前頭前野の認知バイアス」と呼びます。人は「やらない」選択をするとき、社会的評価を気にして不安を感じる傾向があります。だからこそ、あえてリストを目に見える形で机やスマホに置いておくことが効果的なのです。脳は「外にある情報」を「許可された行動」として処理するため、迷いが減り、実行に移しやすくなります。

私の場合、このリストをスマホの待ち受け画面にしていました。仕事で「また背負いそうだな」と感じたときにふと目に入るだけで、「あ、これはやらなくていいんだった」と自分にブレーキをかけられるのです。

やらないことリストは、いわば「自分を守る取扱説明書」。

「これをやらなくていい」と自分に認めることが、背負いすぎを手放す最初の一歩になるのです。