谷崎潤一郎『痴人の愛』の仏語版を読み終わった。

仏語のタイトルは « Un amour insensé ».
Insensé は、古い用法では「狂った」とか、他にも不純、非社会的、インモラルな、公序良俗に反する、行き過ぎたという意味なので、日本語の題にぴったりだろう。
「狂った、おろかな愛」という意味になる。

私は文学が専門でない、初心者なので、この記事の中で特に大した感想は書けない…


日本語版の痴人の愛は、学生時代に、谷崎潤一郎の繊細で詳細な文体が好きで何度か読んだが、その度に内容を忘れてしまった。

ただ、「ナオミ」という主人公の女性の魔性の美しさ、ファム・ファタール感と、
文章の描写の美しさだけが記憶に残っていた。


そして、フランス人の知り合いに谷崎潤一郎が好きだというコアな人がいて、
その子と谷崎氏の文章の美しさについて話したのをきっかけに
「耽美で繊細な谷崎氏の文章が、世界で最も美しい言語の一つのフランス語に翻訳されたのはどんなだろう。」と読んでみたくなった。

読んでみると、フランス語と谷崎潤一郎の相性は抜群で、
じつに豊富な語彙と表現で描写されている。

また、仏語版も言語版と同じく、少し格調高い古風な言い回しをそのまま尊重して翻訳されているので、
現代では耳にした事ことのないようなフランス語の表現や単語もちらほらあったが、その都度調べて勉強する事ができた。


私がこの小説で好きなのは、やっぱり前半の主人公達の運命的な出会いからナオミの美しさが花開いていく部分で、
そこは原語版を読んだ時も好きだったので比較的さらさら読めたが、
後半になると登場人物への感情移入が全然出来なくなって…

学生時代に読んだ時は、頭の中でナオミを無条件に美化して想像していたのが、
「メアリー・ピグフォードに似ている」などの描写からその女優の写真を調べてみると、
現在の自分はフランスに住んで西洋人の顔を見慣れてるのもあってか、
自分的には(え、そんなに美人?)と思ってしまい(最低)
それからは今まで程、主人公の美しさに感情移入できなくなってしまった…(バカ)

でも見た目は関係なく、それを超えるくらいの魔性の美しさだったのだろう。

今の私だと「オードリーヘプバーン」か「橋本環奈」みたいに言われると、より簡単に美しさが想像できる。


また、日本人として西洋への憧れを抱いている譲治の思考をフランス語で読む事で、
当時日本人が抱いていた西洋へのイメージ、憧れを西洋人の目線から感じる事ができた。

以前に読んだ時にはなかった視点だ。

同じ本でも、年を経てから読むと全く違う事を感じられるというのは本当だ。


谷崎氏の他のもっと硬い文章の作品の仏語版も読みたい。


特に大した感想が書けなかった…

話は変わるが、今日はちょうど、日本語を教えている大学の今年度最後の授業日だった。
来月からはまた試験期間があるが、こうしてZoomにアクセスして遠隔でライブ授業を行うというのは今日で最後だった。
今年は本当に大変だった…色々な事がありすぎたので、記事にするのはやめるけど、とにかく大変だった。
今までこの職場で3年間お世話になって、今年は契約を更新せず、その後はパートナーと1年間日本に帰ってゆっくりする予定。
なので、嵐のような怒涛の今年度の授業が終わって嬉しい。

また時間が出来たので、読みたかった小説を新しく2冊ほど読もうと思う。