子どものための教育学
実践編(☆:著者 T:教師 C:子ども P:親)
16 相手を低めることで、自分を高める③
☆注意禁止の話に重なるところがあります。
注意禁止の理由は「怒った気持ち」でした。
実は注意禁止にはもう一つ意味があるのです。
それは、自分が注意する立場になることで、相手より上位になろうとすることです。
これは、日本の社会の問題でもあります。勝ち負け社会なのです。
そして、社会の縮図でもある、教育現場でも同じなのです。
スポーツの世界では、相手に勝つためには、自分がもっと力をつけようとします。これはよほど、特殊な世界だからです。
ところが、日本の社会は、「楽して得しよう」という社会にできあがってしまっていますから、スポーツの世界のように、自分を苦しめて追い詰めて、相手より力をつけるんだとはなりません。
楽して勝ちたいのです。
そしてそれが教育現場にも浸透しているのです。
もちろん学校では、どの先生も一人一人の子どもに力をつけさせたいと思っているはずです。ですから、人と比べるのではなく、昨日の自分より、今日の自分を成長させようと教えるのではないでしょうか。
ところが、それとセットにして、合理性も教えているはずです。
無駄なことはさせない。できるだけ楽になるようにと。
「無駄なことを省き、合理的に生きることで、少しでも楽に生きられるし、その方が得でしょう」と。
教育現場において、合理的に取り組む場面は、非常に多いと思われます。
つまり、歯を食いしばって自分を高めようではなく、「少しでも楽して得しよう」という生き方になっていくわけです。
そして競争社会では、楽して得をする方法と言えば、相手を低めることです。相手を低めれば、自分は何もしなくても、相手より上位に立てるのです。
つまり、注意すればするほど、自分の地位は上がり、注意される子どもの地位は低くなるのです。こんなに楽な方法はありません。
しかし、本当に大切なことは、自分を高めることです。
昨日の自分より今日の自分を、今日の自分より明日の自分を成長させていくことが教育の目的の1つなのです。
小学校1年生の今日の国語の授業は、生まれて初めて学ぶことなのです。小学校2年生の今日の算数は、生まれて初めて学ぶことなのです。
だからわからなくても当たり前なのです。そして、今日授業を受けて、考えて、昨日までわからなかったことがわかったとしたら、昨日の自分より成長していることになります。
そうして1日1日積み重ねて、立派な大人に成長していくのです。
先取りする必要もなければ、常に100点でなければいけないわけではありません。ずっと1番を取り続けることはできません。点数や順位は、他人との競争です。ライバルと競って、それを意欲に変えて頑張ることは大切です。しかし、勝つことばかりが目的の勉強をしていると、本当の勉強の楽しさが感じられません。
本当の楽しさとは、わからなかったことがわかったとき、できなかったことができたとき、今までの自分より成長したことを感じたときに、感じる楽しさであり喜びなのです。
これは脳科学でも研究されていて、達成感から脳内に「幸せホルモン」が作られるそうです。つまり本当の楽しさを味わう勉強をしているときは、勉強していることが幸せな状態を作ることになります。
勝つ喜びでも「幸せホルモン」は作られますが、常に勝てるとは限りませんので、勝つための勉強から、自分を成長させるための勉強に切り替えることが大切といえるでしょう。