私は、1988年ごろ、エステティックサロンを開設した。
その翌年のことだった。
サロンのお客様のひとりである美香子さん(仮名)がお腹をかばうように少し腰を曲げて歩くのでどうしたのかと尋ねると、
「お腹が痛い」と言う。
下痢も便秘もしていないというので、婦人科に行くように勧めたら、
「もし病気だったら怖いから」
と私には理解できない理由を申し立ててなかなか行こうとはしなかった。
「もし、病気だったら治せばいいし、病気でないことを確認するためにも診てもらってください」
彼女がサロンに来るたびに説得したら、シブシブ総合病院で診察を受けて「卵巣ガン」の疑いありと診断された。
私は自身の体験談を語り、蓮見ワクチンを強く勧めたが、「あまり聞いたことがない」といって、主治医に相談したところ断固反対されたという。
彼女は総合病院で卵巣摘出の手術を受けた。
片方の卵巣だけを摘出するはずが、開腹の結果、両方の卵巣を失うことになった。
まだ28歳の若さでしかも独身だった。
手術日当日、美香子さんのお母様は娘の姿を見て失神したそうである。
「まだ嫁にも出してないのに子供が産めない身体になってしまった」
と嘆き悲しむ母の姿は、美香子さんの心に重く響いたという。
術後は放射線治療ではなく、注射や内服薬の抗ガン剤投与をうけた。
吐き気と食欲減退、おう吐に苦しみ、手足のしびれを訴えてマッサージを受けるために来店された。
美香子さんはそれらの症状を「抗ガン剤の副作用」なのだと語った。
私はそれまで誰にも言わなかった、子宮ガンの手術を語り、
その後の放射線治療を受けなかった経緯を告げて、
「そんなに苦しい思いをする必要ないのでは?」
と言ってみたが、美香子さんは、
「それで先生は再発したんですよね」
と、むしろ熱心に抗ガン治療に通うようになった。
私の印象では抗ガン治療はずいぶん長期にわたって行われたが、
職場復帰した翌年、今度は子宮ガンが見つかって全摘出術を受けた。
「まじめに病院に通っていたのに、どうしてかしら。子宮も卵巣もとってしまった私はもう、
完全に女でなくなりました」といって寂しそうに笑った。
こがらで童顔な彼女が放つセリフは生々しくて、私には痛々しかった。
彼女は一度だけ抗ガン治療を休んだことがあったと言い、
「あの時のたった一度がいけなかった。今度は絶対に休まない」
と、主治医の指示に従い、きちんと抗ガン治療に通い続けた。
私は懲りもせず、彼女がサロンに来るたびに熱心に蓮見ワクチンを薦めたが、
主治医に知れたら困るという理由で聞き入れようとしなかった。
そんな彼女だったのに、およそ三年後、今度は乳ガンが確認された。
彼女の嘆きは大変なものだったが、幸いなことに発見が早かったとのことで、
彼女の乳房は一部を切除するだけにとどまった。
彼女は退院と同時に私を訪ねてくると、
「先生は抗ガン治療を受けなかったのに、再発するまで4年数カ月あったんでしょ?
それなのに私は、あんなに熱心に通って、副作用に苦しんだのに、たった3年で再発したんですよ。
もうバカバカしくなりました」
と言って、蓮見ワクチンの接種を開始した。
再発への恐怖におびえる彼女の選択だった。
蓮見ワクチンを開始して2カ月後、彼女は私に対して、
「楽ですよね。副作用が何にもない」と感想をのべた。そしてその1年後、
「風邪もひかなくなりました。ワクチンのおかげですか?」
と私に問うので、私は、分からないと正直に答えた。
彼女は、
「あの時、すぐにワクチンを始めていたら、卵巣をとらずに済んだでしょうね。
もしそうだったら今頃は子どもがいたかもしれないですよね」
と言い、続けて、
「どうして医者はワクチンを勧めてくれなかったんですか」
とまるで私の責任のように心のわだかまりをぶつけてきた。
私は、この問いかけにもやはり、
「分からない」としか答えられなかった。
私自身、なぜ、蓮見ワクチンが医療現場から締め出されているのか、
不思議でならないのだから、他に答えようがない。
「でも、おかげで再発が怖くなくなりました。短期間に3度もガンの手術を受けた私はガン体質なんでしょうね。だけどもしガンになっても、蓮見ワクチンがあれば手術をしなくても治る気がします。
先生は私の恩人です」
とお礼をいってくれた彼女は40歳になった今も独身でいるが、いたって健康である。
彼女のガンが再発しない理由が蓮見ワクチンを続けているためなのかどうかは定かではないが、無関係であるともいえないと私は思っている。
(つづく…)
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