私は気が少し動転した。 

同じ時計が二つ・・・・ 


その時、目の前をスーっと風が抜けたような気がした。 


直ぐにリビングへ戻ってみると、もう誰も居なかった。 

すると、玄関を開ける音が・・・ 


子供「ただいま」 


そう、子供が学校から帰ってきたのだった。 

私は、さっきまで子供と話していたような気がしてたのだが、いつのまに時間が経ってたのだろうか? 

ふと、時計を見ると夕方の4時を回っている。 


そして、子供をしげしげと見た瞬間。 

なんか、子供が大きくなったような気がした。 

気のせいか、まだ小さい小さいと思っていたのだが、子供の成長とは早いものだ。 


妻「あなた、いつからか知らないけど、よく黙り込んでる時間が多くなったけど、何かあったの?」 

いきなり、背後からの妻の声にビックリした私だった。 


私「なんだ帰ってたのか、いきなり声かけるから、びっくりしたじゃないか」 

妻「だって、もう夜なのにずっと部屋で考え事してるんだもの。それにいつまでも子供のことを子供扱いしてたら、あの子がかわいそうですよ。」 

私「そうかな?だってまだ子供なんだから・・・」 

妻「もう中学生なんですから、少しは扱いを変えてください」 


私「え・・・」 


もう、中学生だって? 


私はまったく気づいてなかった。 

そんなに、最近物忘れが酷くなってきたのだろうか? 

なんか、頭が痛くなってきたので、今日は晩飯を食べずに寝ることにした。 


それからだった。 

私の記憶がさらにあいまいになりだしたのは・・・ 


あれから、どれぐらい経ったのだろうか、外が明るくなっきたので目が覚めた。 

なんだ、もう朝なのか・・・ 


そして、1階へと降りていった。 


誰も居ない。 

あれ、もうみんな出かけちゃったのか? 

しまった、会社に遅れちゃうよ!! 

と、時計を見ると、まだ朝の6時だった。 


それにしても・・・と、辺りを見渡すと、何か違う! 

部屋の中が、なんとなく古めかしく感じるのだった。 


そして、玄関で物音がした、と思ったら風のようなものが、スーっと抜けて行ったような気がした。 


あれ?っと思い、また部屋に戻ろうとしたとき、何か外で大きな音が・・ 


外に出てみると、何もない。 

気のせいか? 


それにしても妻と子供はどこに行ったんだろう? 

さっきまで一緒にいたはずなんだが・・・ 


そして、また部屋に戻ろうとしたとき、また目の前をスーっと風が抜けたような気がした。 


そのあと、隣の部屋から何か匂いが漂っているのを感じた。 

この匂い、線香かなんかの匂いだった。 


みんな隣の部屋に居るのかと思い、隣の部屋へと足を踏み入れた。 

しかし、誰も居なかった。 


その部屋には、小さな仏壇があり、線香はそこから漂っていたようだ。 


あれ?うちに仏壇なんてあったっけ? 


そう、仏壇なんて置いた覚えがないのだ。 

今の今までそんなものが無かったのに、なぜ? 


そして、恐る恐るその仏壇を覗き込んでみた。 

すると、そこには2つの位牌と写真があった。 

一人は40歳は過ぎているであろう年配の女性の写真。 

もう一つは、20歳ぐらいの男性の写真だった。 


そして、その写真をじっくりみた。 

次の瞬間、目を疑ってしまった。 


そう、その女性の写真は妻の顔に似ている。年は取っているが似ているのだ。 

それに男の写真・・・息子か。 

どういうことだ・・・・ 


私は夢中で玄関を裸足で飛び出してしまっていた。 

すると、近所の人が、何やら集まっている。 

しかも、こっちを見てヒソヒソと話している。 


さらに辺りを見回すと、もう日が暮れかかっていた。 

なんだって、もう夕方かよ・・・ 


私は、何がなんだか判らなくなって、その場に突っ立てるだけだった。 

すると、サイレンを鳴らしてくる一台の車が・・・ 

その車は、私の家の前で止まった。 


そして、私を担架に乗せた。 

そう、その車は救急車だったのだ。 


私は、まったく体が動かず、されるがままに病院に連れて行かれたようだ。 

そして、気を失っていたのか、しばらくして目が覚めた。 


やっぱり、ここは病室だ。 

周りには、看護婦やら先生らしき人が居る。 


先生「あ、やっと目を覚ましたようだね。」 

私「あ、ここは?ここはどこですか?私はどうしたのでしょうか?」 


先生「君はもう1週間も眠り続けていたんだよ」 


私は、またあの忌々しい出来事を思い出した。 

また、あの病室に戻ったのか、それともまだあの病室のまま夢を見ていたのか? 

逆にそうだとしたら、良かった・・・と思った。 


先生「君はあの時以来、精神が不安定になって、手につけられない状態だったのだよ」 

私「あの時・・・」 


あの時って、いつのことだろう? 

自転車で事故にあったときなのだろうか? 


私「あの時って、いつからなのですか?」 


先生「もう1年も前のこと、奥さんと息子さんを事故で亡くして以来だよ」 


私「え?事故で??」 


じゃ、あの仏壇の位牌と写真・・・ 

それに、1年前だって? 


先生「君は覚えてないのかね?1年前に不慮の事故で奥さんと子供を亡くして以来、情緒不安定になり、入退院を繰り返していたんだよ。 そして1週間前に病院を抜け出した・・・」 


私「え!まったく覚えてないです。 記憶が途切れ途切れで、未だに子供が小さい頃の記憶しかないんです。」 


そう話をしていたかと思ったら、また、スーっと記憶が飛んだ。 


そして、またいくつもの風が抜けていったような気がした。 

今度は、かなり長い時間だった。 


何なんだ、ここはどこだ! 

よく周りを見渡すと、どこかの古い部屋で倒れている。 

おかしいぞ、さっきまで病室にいたはずなのだが・・・・ 


周りを見ると、蜘蛛の巣だらけ、まるで古い家に閉じ込められてるようだった。 


ふと手元に、時計が2つ! 


なんだ、この時計は・・・? 

そうか、子供に買ってあげた時計だ!! 


その時計をあらためてよく見てみた。 

すると、一方の時計はあのときから1日しか経っていない。 

つまり、物凄く時間の進み方が遅いのだ。 


しかし、もう一方の時計・・・ 

そう、その時計は、あのときから10年以上も経過している。 


もしかして、時間の進み方が極端に遅い時計、これが私の次元の時計で、10年以上経った時計、これがこの次元の時計なのだろうか。 


この時計のせいで、お互いの時間が干渉しあって、時間が進んだり、止まったりしていたのか。 


同じ次元に存在するはずのないこの2つの時計・・・ 


やっぱり、私はここに居る人間じゃないんだ。 


これから、どうすればいい! 

このままだと、生きてる心地がしないぞ。 


いや待てよ。 

この2つの時計、もしかしてどちらかの電池を抜くとどうなるのだろう? 


もし、元の世界の時計を止めたら、この世界の人間としてまともに生きていけるのだろうか? 

しかし、もう既に遅いのかもしれない。 

今がいつなのかも判らない・・・ 


そして、決断したのは、この次元の時計を止めることだった。 

それは、家族を失いたくなかった、それだけだった。 


そして、時計の電池を抜いた・・・ 


 

 

 


<続く>