「キャンパス・カフェ」は、毎日新聞大分版の毎月第3木曜日に掲載されています。学生たちの企画・取材・執筆によるページです。大分県立芸短大、大分大、日本文理大(NBU)、立命館アジア太平洋大学(APU)の学生たちが参加しています。毎月各号の内容を、ご紹介します。

●円高・・に苦しむ留学生たち
 金融危機に伴う円高のいま、日本で勉強中の外国人留学生は、ハードな日々を送っている。アルバイトは勉学を続けるための自助手段だ。キャンパスカフェ編集部員の留学生ら2人によるバイト体験記をお届けする。
◆韓国人留学生のバイト体験記
<私を成長させてくれた/一生忘れない>
 日本に来て約2年。アルバイトを始めたのは来日後10カ月。6、7歳の子供程度の会話しかできなかった。「勇気があれば大丈夫。どこでも働ける」。そう思い電話をかけたが、「外国人はお断りしています」という返事。仕事は簡単に見つからなかった。
 やっと見つけたのが、ホテル宴会場でのウェイトレスの仕事だった。私にとっては辛いことの連続だった。仕事が始まり、がくぜんとした。日本語のスピードが会話練習用テープとは、まるで違うのだ。何を話しているのか聞き取れない。みんな忙しく働いているの、私は指示を受けても何をすればいいのか分からなかった。
 私だけ邪魔になってるみたいで、逃げたくなった。そして、私だけが一人で洗い場の仕事を手伝うようになった。悔しかった。「日本人は冷たい」と涙が出そうになった。今にして思えば冷たいわけではない。でも世界のどこでもある”文化の違い”が辛かった。
 「お疲れさまです」。だれかれと、あいさつするのに慣れない。会うたびに、そんな声をかけるのが、恥ずかしい。韓国と違い、男女の仕事差があまりない。重たいものを運んだりするのも、女がする。不思議だった。
 辞めようかと思った。でも、ここで辞めたら、日本の文化が学びたくて留学した目標がなくなる。がまんして、毎晩、日本語の勉強をがんばった。
 ある日。トレイの持ち方に慣れてなかった私は、お客さんの背中にウーロン茶をこぼしてしまった。マネージャーは他の日本人バイトに処理を頼み、私は会場の裏に追い出された。パーティーが終わるまで、グラスや皿をを拭くしかなかった。今でも悲しい思い出だ。
 4カ月ぐらいになったころ、日本人の会話が少し聞き取れるようななった。少し自信ができた。韓国から来た女子学生2人を職場に紹介した。でも2人はすぐに辞めた。私は他のバイト先に行っても、自分が変わらないと一緒のことだと思い、辞めなかった。
 だんだん仕事が身についてきた。ミスも減った。マネージャーに仕事を任されるようになった。自然なサービスができるようになった。「韓国人ですか」「留学生?」と聞かれても、今では楽しみながら答えられる。
 最近、私は「今月のベストスタッフ」に選ばれた。最初のころ感じたお客さんのあさ笑い。それは自分で作り出した被害意識だったのかもしれない。
 日本人の多くは、外国人を無視はしないが、先入観はあるようだ。私も韓国にいるときは、そうだった。アルバイトの仕事は、私を成長させてくれた。韓国に帰っても、一生忘れない。

◆真摯さと努力に学ぶ
 私のアルバイト先の結婚式場には、留学生が多い。韓国やモンゴルなど出身国はさまざまだ。結婚披露宴では、質の高い接客が要求される。たどたどしい日本語は、目立ってしまう。「どうして留学生を雇っているの?」。そう思っていた。
 ところが、お客様の声はあたたかい。「私のテーブルについてくれたモンゴル人の子は、とても丁寧な接客をしてくれたよ。日本語とモンゴル語で名前を書いてれた。勉強熱心で感心した。楽しい時間を過ごさせてもらった」。そう言って満足げ笑みを浮かべた。 世界的に不況が深刻になる中、派遣切りや内定取り消しなど、社会的問題が起きている。私たち学生にとっても他人事ではなくなった。厳しい状況であればあるほど人格が問われる。「必要とされる人」であるためには、真摯な気持ちと努力が大切なのだ、と留学生たちから学んだ。
◆円高が留学生を直撃
 「学費を減免できませんか。このままでは韓国に帰らざるをえません」。大分・別府地区には多くの外国人留学生がいる。うち韓国人留学生は1000人近くいる。金融危機後、韓国通貨ウォンの価値が半減し、大きな打撃を受けている。
 日本文理大(NBU)の学生ジョ・ガンレさん(19)は、元ユースサッカーの選手。スポーツマネジメントを学ぶために留学中だが、「前期には両親からの仕送りとして1カ月に約7万ウォン(現在のレートでは約5万円)を送ってもらっていた。後期に入って、円高のために2倍に増額。現在は約1万4千ウォン(約10万円)を送ってもらわないと生活ができない」。
 立命館アジア太平洋大学(APU)のチェ・ギホさん(20)は「生活が苦しい。食事を減らす反面、アルバイトの時間を延長した」という。
 一部の大学では学費の納入日を、昨年12月や今年2月まで延期した。年2回の学費支払い期限を年8回(前後期各4回)に分納する制度でも対応中だ。留学生のために約20万円の入学金免除や、授業料50%免除もある。NBU経営学部の場合、授業料は年間約90万円だが、留学生は半額の約50万円。減免制度によって、勉学に問題が起きないように対策を講じているわけだ。
 しかし、各大学の対策にもかかわらず、留学生たちからは苦しい声が続いている。別府大学の留学生ホ・ユルさん(21)は「この状態が続けば、大学を中退して帰国せざるをえない。何か抜本的な対策を考えてほしい」と語っている。

◆大分県内の留学生は約4000人
 大分県国際交流室が昨年11月1日現在でまとめたところによると、県内の大学・短大には、93の国・地域から、3980人の留学生が在籍している。同年5月1日現在に比べ194人が増加した。これは人口比でいえば、東京都に次いで2番目に多い数字である。
 このうち私費留学生が3785人で大半を占めている。国費留学生は123人、外国政府派遣は72人だ。
 国・地域別にみると、もっとも多いのが中国の1479人。留学生全体の37%を占めている。次が韓国の937人(24%)。タイ256人、ベトナム229人、インドネシア192人、台湾150人、モンゴル113人と続く。APU(学部と大学院)には、計2748人(県全体の69%)が在籍している。他の大学では別府大639人、NBU381人、大分大172人だ。

●ひと(大学人)/別大毎日マラソンに挑戦/大分大学工学部4年
◆堀田憲さん(22)「恩返しのつもりです」
 大分トリニータのGK西川周作選手に似ている。「よく言われるんですよね」。
福岡県立北筑高校(北九州市八幡西区)出身。陸上は小学校3年の時に始めた。
 「ロードレース大会で2位だった。1位の人に勝ちたくて、同じクラブに入ったんです」。2月1日に行われる第58回別府大分毎日マラソンに出場する、県内では唯一の大学生選手だ。
 高校3年の時、日本海マラソンに挑戦した。「走り納めのつもりで出たんですけど、結局、今も陸上を続けているんです」。走るのが何より好きだ。それが、ひしひしと伝わってくる。
 「専門は800メートル、1500メートルの中距離。長距離の大会への参加は、挑戦!ですかね。他人と違うことがしたいんです。目立つことが好きというか」
 昨年も別大マラソンに出場し、2時間45分35秒で走り切った。「昨年は30キロ過ぎたところから、足が動かなくなった。今年は2時間30分台で走りたい」。毎日、グラウンドを20キロ。週に1度は公道に出て30キロ走っている。
 「今日も朝、走ってきたんですよ」。さわやかに答える姿に、疲れなど少しも感じない。今大会には福岡から両親が応援に駆けつけるそうだ。
 「今春から社会人になるので、今度が本当に走り納めです。陸上は一人ではできない。小学生のころから陸上を続けさせてくれた両親や、支えてくれた人たちへの感謝の気持ちを持ちながら、恩返しするつもりで走りたいですね」。