白馬は王子の目指す「伝説の紫の教会」へと一路、薄暮に染まりつつある森の中を駆け抜けていた。王子―凛々しい瞳をしたプリンス・オブ・プリンス―ミルタックは美しい金髪をなびかせて、馬の鞍に挟まったドレスのすそを必死でとろうともがいている伝説の姫―幸子に告げた。
ミルタック「姫よ、この森を抜けたら、夜明けの村に出る。そこで宿をとろう」
幸子「あのね、それより先にこの馬から降ろしてよ!」
ミルタック「それは危険だ」
幸子「危険って、何がなんだかわからないのに、馬に乗せられてるわたしの身にも
なってくれない?」
ミルタック「この森は、別名、恐れの森、と言われていてね、夕暮れ時が一番出るんだ・・・」
幸子、ミルタックの険しい表情に顔をひきつらせる。
幸子「何何、オオカミ?!・・・まさか、おばけとかじゃないよね」
ミルタック「両方だ」
幸子、縮みあがる。
不気味に鳴く、ふくろうのような、低い鳥の鳴き声。
森にこだまする獣達の鳴き声。
幸子、ここで降ろされるのは危険かも・・・・と信じようとした時、ミルタックがおかしそうにクスリと笑う。
幸子「なによ・・・なにかおかしい?」
ミルタック「伝説の姫が、君で良かった」
幸子「へ?」
ミルタック「旅の共は面白い方がよいものだな」
幸子「どういうことよ」
ミルタックはそれには答えず、鞍をそっと持ち上げた。するりと幸子のドレスのすそが
ほどけた。魔法のようにいとも簡単に。
ミルタック「ひっぱるのではなく、持ち上げるのだよ。なにしろ上に重しが乗っていたら
どんなものもとれないのは当たり前だからね」
つまり、はさまっていた原因は鞍に乗っている幸子の体重。それが重しとなり、押してもひいてもほどけなかった、という単純なものだったのだ。
ミルタック、おかしそうにくすくすと笑い続ける。
幸子、恥ずかしさで真っ赤になった。
幸子、重しとは、なんて失礼な王子なのだ・・・まったくこの王子は見かけ倒しなの
?!幸子、憤然とミルタックの手から手綱を奪い、思いっきりひっぱった。白馬は驚いて、いななき、足どりを止めてしまった。その馬から飛び降りる幸子、しりもちをつく。
ずじんと痛みがお尻に響いたが、それをこらえて、よろよろと立ち上がり、幸子は来た方向へとずんずんと歩き出す。
ミルタック「何処へ行くんだ、姫!」
幸子「家へ帰る!」
ミルタック「歩いて城へ戻るには半日はかかるぞ」
幸子「半日もあれば、十分!戻って、家に戻る方法を見つける」
ミルタック「城に戻っても家には帰れないぞ」
幸子「え?」
幸子、ミルタックの言葉に振り返る。
幸子「どうすれば帰れるの?」
ミルタック、言葉に詰まる。
幸子、ミルタックを問い詰めようとしたその時、茂みがガサガサっと揺れた。
ミルタック、素早く幸子を自分の胸に抱き寄せ、剣を抜いて構えた。
幸子、急な抱擁に動揺が止まらない。
ミルタックの熱い胸板が自分の顔の前にあって、その心臓の鼓動が激しく
波打つのが聞こえた。
茂みが、激しく揺れ動き・・・そこから現れたのは愛らしい小鹿だった。
ミルタック「・・・・ふう、良かった。これが、化け物だったら大変なとこだった・・・」
ミルタックは幸子をそっと離した。
幸子、振り返ると、小鹿がおびえたように突っ立っていた。
ミルタック、馬の鞍につけた皮袋からパンを出して、小鹿に差し出す。小鹿近寄ってきて、そっとミルタックの手からパンをほうばった。
幸子「可愛い・・・バンビみたい」
ミルタック「バンビってなんだい?」
幸子、あ、ここは現実の世界じゃないんだ、と改めて思った。
幸子「わたしの国の本に出てくる小鹿の名前」
ミルタック「ほう、君の国にも書物があるのか、バンビ、愛らしい名前だ」
と、幸子にパンのひときれを差し出した。
ミルタック「君もあげてみるかい?」
幸子、うなずくと、そっとバンビにパンを差し出そうとした瞬間、小鹿が出てきた茂みの中から、何かが飛び出してきた。何の前触れもなく、「それ」は幸子に襲いかかって
来た!
ミルタック「伏せて!」
幸子「え?」
ミルタックが幸子の前に飛び出そうとするが、間に合わなかった。
幸子は悲鳴をあげて、「それ」を見てしまった。
そして、その場で気絶してしまった。
「それ」は、頭が八つある蛇で、ムカデのように数えきれない足で出来た化け物であった。
ミルタック、剣を抜いて、その化け物の首ねっこを一撃で突き、しとめた。
そして、幸子にかけよろうとするが、幸子の姿は消えかけていた。
ミルタック「遅かったか・・・!!ああ、姫よ・・・・せっかく出会えたというのに!!君は気絶してしまうと、元の世界に戻ってしまうのだよ」
幸子の姿は透明になり、そして、ひと葉のよつ葉のクローバー
を残してかき消えて
しまったのである。
そして、幸子は目覚めた。自分の部屋の・・・いばらのベッドの上で。
幸子は、すぐにそこが自分の部屋だとは思えず、ぼんやりと天井を眺めていたが、
はっと気がついて、飛び起きた。
幸子「王子!!」
しかし、美形の王子、ミルタックの姿はなく、あるのはいつもの自分の部屋の風景、
そして、アラーム機能のとっくに停止してしまった目ざまし時計だった。
時計の針は無常にもまた8時15分を指していた。
幸子「また、遅刻だ・・・・」
幸子、大きなため息をついて、白雪姫のドレスからスーツへと着替えて、家を飛び出したのであった。そのお尻は落馬したときの衝撃が残って、まだ痛んでいた。
幸子はいつもの見なれた通勤路を走りながら、確信していた。これは、夢なんかじゃない。もうひとつの現実、なんだ。
王子は、ミルタックは、無事だろうか。あの悪魔のようなムカデ蛇とちゃんと戦えただろうか、命を落としたりしていないだろうか・・・幸子は、王子の身を案ずる気持ちを
胸に秘めたまま、もうひとつの現実が待つ会社への道を駆けて行った。
幸子「すみません!!」
と、頭を深く下げる幸子に、しょうがないなあといった顔の金田課長。
金田「わかった、もう、いい。君の来客は僕が対処しといたから。でも、今回だけだぞ。次やったら、上に報告しなきゃなんなくなるよ~。いくら、仏の金田でも三度目はないからね」
幸子「はい、申し訳ありませんでした!!」
幸子、金田が行ってしまうと、深いため息をついて、お尻をさすった。
吉田「大丈夫っすか!!」
幸子、そのばかでかい声に腰が抜けそうになった。
声の主はもうわかっている。昨日来たばかりの新人、吉田茂だ。
吉田は幸子の隣の席になったのだ。そして、幸子にホカロンを差し出した。
幸子「何これ?」
吉田「ケツ、痛いんでしょ、これパンツの上から貼れるから、痛みの緩和にいいかも
です!!」
幸子「・・・・ケツって」
幸子、吉田の大声に耳をふさぎたくなる気持ちを抑えて、カイロを受け取ることにした。まったく、こいつは下品極まりないバンビだわ・・・。と思いながら。
幸子「ありがと」
吉田「おれも経験したことありますよ」
幸子「え?」
吉田、にやりと笑う。
吉田「駅の階段慌てて登って、滑るのって、痛いっすよね!!」
幸子「・・・・」
幸子、お前とは違う、と言いたかったが、こらえた。
王子の白馬から降りようとして、落ちたのだとはこのバンビの様な眼をした青年には
とうてい信じてはもらえないだろう、と思い、王子の身を案じた。
今頃、あのムカデ蛇のおなかの中で消化されていないだろうか・・・口は悪いけど、
見た目だけはよかったのに、残念だ・・・なんて、思いつつ、目の前の書類の山を
ただ茫然と見つめていた。
そんな幸子の様子を吉田が心配そうに見つめていた。
(続)
今回も長々と書いてしまってすみません(笑)でも、ここまで優しくも読んでくださった方に、心優しきぺタをつけていただけると、ミルタック王子もきっと嬉しいと思います(笑)
では、今回も
ぺタ数5以上で、展開A→ 幸子、再び、ミルタックの待つ世界へ行く![]()
ぺタ数5以下で、展開B→ 幸子、吉田に秘密を知られてしまう![]()
でごさいます~☆
ちなみに集計期間は本日のアップから今週の9日の日曜日までの集計といたしますね![]()
気が向いた際にはぜひ、ぺタをつけていただけたら嬉しいです![]()
よろしくお願いいたします~![]()