みじんこものがたり | ―無謀な女子キャンプ―

みじんこものがたり



「ファミリーへ。週末はお山に行ってきます。」



いつのまにかそんな報告をするのが当たり前になっている。
ファミリーと言っても、親や兄弟ではない。ほんの一年前まで顔も名前も知らない、年齢も性格もバラバラな4人の女子達のお話。



***



少し冷たい秋の風が吹く、良く晴れた土曜日の朝。私は緊張とワクワクする気持ちと大量の荷物を抱え、東京駅のロータリーで知らない女の子を待っていた。Mixiのコミュニティ内で企画された、「オフ会キャンプ」なるものに参加するためだ。



手紙「友人が行けなくなったので、よかったら私の車に同乗しませんか?」


開催日の数日前、こんなメールがコミュニティの管理人から届いた。

実はこのオフ会キャンプ、あまり乗り気ではなかった。いや、実際当初は行く気でいたが、人見知りの激しい私としては「気心の知れた親友も一緒に行くのであれば」というのが絶対条件だった。しかし親友も都合がつかなくなり、私の「行く気」も完全に無くなっていた。


(一人で知らない人間の輪の中に加わるなんてとんでもない。

ましてやインターネット上で知り合った人間なんて信用できない。)


それまでブログはおろか、mixiでさえ友人との連絡ツールぐらいにしか使ったことの無かった私はインターネットのオフ会というものにあまり良いイメージを持っていなかった。管理人である「ゆっかさん(こいっち)」とは先にブログを通じて知り合っていたとはいえ、


(もしかしたら詐欺事件に巻き込まれたりおかしな組織に勧誘される可能性もないとは言い切れない)


などとありえない状況を一通りは想定してみるほど警戒していた。というか、私はバカがつくぐらい臆病者なのだ。


(道具もないし、現地まで行くための足も無いし・・・)



そんな言い訳で、掲示板上でも行けない空気を醸し出していた折りに、管理人であるゆっかさんから直々にメールが来たのだ。


手紙「管理人の子からメールが来た!どうしよう、断る理由もなくなっちゃったし、あたしちょっと行ってみようかとも思うんだけど・・・」


親友のマルとカリヤに、真っ先に連絡を入れた。チームテキサスとしてキャンプを始めたばかりの私たちは、日に日にキャンプにのめり込んでいて、この頃私は自分たちのように女の子同士でキャンプをしている子のキャンプが見てみたいと思いはじめていた。しかしひとしきりの音楽フェスも終わった秋の終りに、どこへ行けばそんなキャンプに出会えるのか、そもそもそんな人たちがこの世にどのくらいいるのかも、さっぱり検討がつかなかったのだ。


(勇気を出して行ってみれば、何かきっかけがつかめるのかもしれない。)


そう思った私は意を決して、一人で「女子キャンプオフ」に乗り込むことを決めたのだった。



***



参加が決まってから、私はいつもと違う緊張の中にいた。

前日の準備では、ソロキャンプの道具など何も持っていないのに何度も何度も持ち物を確認し、とにかく何も無くても、最悪ただの野宿になったとしても一夜過ごせるようにと、大量のホッカイロと火を使わなくても食べられる非常食、万が一途中で買い出しに寄ってほしいと言い出せなかったとしても大丈夫なように、自分が飲む分のお酒もわざわざ家から持っていった。


(明日は絶対に寝坊しちゃだめだ・・・)


そう思うと全く眠れなかった。結局、2時間程眠ったところで朝がきた。


***


東京駅でゆっかさん(こいっち)を待つ間、私は「会話のイメージ」の妄想に勤しんでいた。人見知りが激しく秀でて陽気なわけではない私はなおさら、明るく努めなければ相手がつまらないのではと思うし、大して楽しい会話もできずでは2時間以上も密室で過ごす相手に失礼だと思ってしまうからだ。


ゆっかさんの車を見つけると、


「こんにちはー!!!!よろしくー!!!」


とにかく明るく、緊張など微塵も見せないように努めた。
[私は幼少の頃より明るく陽気な人間で初対面の人とも楽しく話が出来る]
そんな暗示を本気でかけた。


「おくれてごめんねー!!よろしくーーー!あははは」


眼鏡をかけた知らない女の子の運転する真っ赤な車の助手席に、ギリギリの自己暗示で緊張を隠したお団子頭の私が座った。



***



車が走り出すと私は沈黙を恐れ、用意してきたいくつかの質問をぶつけたり、話題を振ったりした。しかしそれはあまり必要なかった。


誰よりも人見知りだと豪語するこの私でもまるでずっと前から友達だったかのように、ポンポン会話が弾む。今まで初対面の人とこんなに会話が弾んだことは無かった。窓の外を流れていく景色が紅葉の山々へと変わるにつれて、車中がどんどん気を使わなくて平気な空間になっていくのがわかる。きっと相手は気を使って色々話してくれているのだろうとも少し思ったが、それを微塵も感じさせない。
(きっとこの子にはこうやってたくさん友達ができるんだろうな)
こなれた振る舞いは、対人コミュニケーションの達人の域に達しているとさえ思った。


道中、キャンプ場変更というトラブルがあり急遽もう一人の参加者、suzuさんを車で迎えに行くことになった。
河口湖駅のベンチで待っていたのは大きな黒いパンパンのバッグと、おなかのあたりに小さなチワワを連れた、穏やかな印象の女の人だった。喋る口調も落ち着いている。
このとき、私はすっかり「陽気な人モード全開」になっていた。落ち着いたトーンで話をするsuzuさんのテンションが少し羨ましい。私はきっと、根っから陽気なテンションの持ち主に見えているのだろうと思った。しかし、急にブレーキをかけるのもおかしいし、このまま流れに身を委ねることにした。


車が動きだすと、少しずつSuzuさんとの会話が始まり、また少し人見知り病が顔を出し始めた私は少しの間、ほとんど相槌だけ参加しながら2人の話を聞いていた。どうやら、みんなキャンプ歴がそれなりにある人たちらしい。そして、傍から見るとではあるが2人とも驚くほど自然に会話をしている。すごい。コミュニケーション能力が高い。というかこれが普通なんだろうか?傍から見れば私もそういう風に見えるんだろうか?それともこのゆっかちゃんて人は魔力の持ち主なのか?などと、これから始まるキャンプと全く関係の無いことばかり考えていた。


キャンプ場に着くと2人はそれぞれテントを張り始め、私はぽつんと一人でやることもなく、荷物を広げてただボーっとつっ立っていた。一回、持ってきた凧を持って走ってみたけど揚がる気配もなくて全然おもしろくないのですぐやめた。


* **



 薄暗い時間になると、ブログに何度かコメントしたりして名前を知っていた「放置キャンプ」コミュニティのメンバーでもある、「バードメン氏」が合流。挨拶もそこそこにテントや椅子を借りた。

 私はキャンプ場で様々なものをレンタルするつもりで来ていたのだが、レンタルの出来ないキャンプ場に急遽変更になってしまったため、持ち物は薄いシュラフとホッカイロ、酒と非常食だけという随分ふざけた装備の人になってしまっている。さらにテントを借りたは良いけれど一体何がどうなっているのかさっぱりわからずオロオロしているとバードメン氏とこいっち、すずちゃんの3人が私の眠るテントを建ててくれた。ただペコペコと頭を下げることしかできない自分が不甲斐ない。同時に、どこのウマの骨かもわからない私に高価そうな、当時の私からすれば見たこともないようなテントをホイっと貸してくれたバードメン氏は神なのかもしれないと思った。



***



「あのー。女子キャンプですかー?」


最後の参加者、あかねさんが到着した頃にはあたりが暗くなり始めていた。バイクで颯爽と到着し、明るく声をかけてきた彼女は、しっかりした大人の女の人の印象だった。一目見た瞬間、強くて明るくて豪快で行動力があって、そんな性格の持ち主だろうと推測した。バイクで乗り入れパパパっと自分のテントを設営する姿を見て、ただただ「すごーい!」というありきたりな感想を述べる自分が陳腐に思えた。


 すっかり夜になると、ブログなど拝見していた「いのうえさん」も合流し、もうなんだか急にキャンプのプロに囲まれたようだった。これまで新しい友達との出会いなど何年も無かった私は正直、このあたりで精神力が限界に近づいていたようだ。もう自分の目の前のものしか見えず、とにかくお酒を飲んで、初めて会った方たちの繰り広げるアウトドアな会話についていこうと必死になる。後から来た放置民さんのお友達だというチュンチュンとかハンハンと呼ばれている男の人たちはもう一体どこから来た誰なのか最後までよく分からなかった。
宴会中、私以外の3人の住まいが同じ路線の近所だという話で盛り上がっていた。かくいう私も3人の住む街からそう遠くない場所に住んでいる。今思えば、なんのつながりも前情報も無く集まった初対面の4人が、割とご近所同士だったというのも不思議な話だ。


 前夜ほとんど寝ていなかったのもあり、夜が更けてくると酷く疲れて私はみんなより先に眠りについた。テントの外では初対面なはずなのにこの上なく楽しそうな会話が自分とは違う世界の言葉で聞こえていた。同じぐらいのタイミングでテントに入ったすずちゃんが、なんだか心強かった。



***




 一夜明け、体力も精神力も回復した私は昨夜とは別人のようになんだかウキウキしていた。私の心の疲れはいつだって一晩寝れば全て吹き飛びリセットされる。まさに睡眠がすべてのエネルギー源であるに違いない。もう、昨日初めて出逢ったみんなは友達になっていた。むしろまるで昔から知っている人のような気さえした。キャンプとは不思議だ!

 初めて体験する焚き火を囲んだ朝ごはんも、見たこともない道具も、小さなトラブルで巻き起こる笑いも、全部が私を楽しい気分にさせた。帰る前に4人で記念写真を撮ると、まるで高校生の頃みたいに新しい友達ができた喜びをかみ締めた。


 帰りの車の中で、私たちは本当に昔からの友達のように他愛の無い話をした。冗談抜きで、昨日初めて会った人達だとは思えない。こんな体験は初めてだ。渋滞する高速道路で、バイクのあかねちゃんに追い越され、振り向きざまに手を振ってくれた。すごくかっこよくて、こんな素敵な友達がいることを誰かに自慢したくなった。



***



キャンプのあと、4人は飲み会をひらいたり、一緒に道具を買いに行ったり、キャンプに行ったり、お互いの家に遊びに行ったりと、本当に毎日のように一緒に遊んだ。Twitterやメールで毎日会話した。それぞれがお互いの距離を縮めたくて仕方ないような、なんとなく焦る気持ちを抱えつつみんなに会いたかった。お互いを良く知らないからこそ、会って知ろうとしたし、4人で何かをすることが楽しくて仕方がなかった。


あれから一年。良くも悪くも全員が思ったことをなんでも言い合う私たちは、案の定、時々喧嘩のような言い合いもする。しかしその度にそれぞれが自分と向き合い、人として成長しようとする不思議な仲間達。喧嘩をしたって何だって、会えば結局楽しいしこれから先もずっと一緒に遊んでいたい。



そんなmijincoは単なるキャンプ仲間を越えて、今ではファミリーと呼ぶ方がふさわしいのだ。






一年前のあの日の、全ての出来事・出会った人に感謝。



―無謀な女子キャンプ―


2011年1月中旬、mijincoのHPオープンです。



mijinco祭はここで開催中→ こいっち   すず   あかね



■ 最近1年記念の感謝祭ばかりですみません■
感謝したい人が沢山居て幸せです。ありがとうございます。


今回長くて途中で読むのを諦めた人、正解です。

いざ振り返って書いてみたら当時のレポと大差ない内容が

ちょっと暗めの文章になっただけでした・・・

読んでくださった方は・・・ホントすみません!!!!(;´Д`)(汗

  ↓嘘でもうれしい
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ちなみにこのときのキャンプレポートはココ に4人分全てまとめてあります