毎度ありがとうございます。
さてさて。
曙太郎さんが亡くなったとのこと。
心疾患で長く闘病中だったとはいえ
あのはにかみがちな笑顔が
もう見られないのかと思うと
非常に残念です。
以下の文章は
令和5年（2023）
1月27日更新の記事の転載。
僕の新作浪曲
『まだ見ぬ横綱』
初演にちなみ
〝ひいきの横綱〟
として曙をとりあげた際の
全文です。
（原文はアメンバー限定記事）
これをもって
曙太郎さんへの
追悼といたします。
ではどうぞ。
第1856回
『曙の孤独』
毎度ありがとうございます。
さてさて。
これまでは
僕がリアルタイムで見られなかった横綱への
叶うことのない「憧れ」をお話ししてきましたが
ここからは
僕も実際にテレビや角力場で見てきた横綱や
力士についてお話ししてみましょう。
好きな横綱は柏戸
好きな時代は輪湖
ではひいきの横綱は？
と聞かれると僕は
ためらいなく……
第64代横綱 曙太郎
と答えます。
理由は？と聞かれたら……
その相撲内容うんぬんよりも
「判官贔屓」的な要因が大きいかな？
と答えます。
曙といえば
第65代横綱 貴乃花光司
第66代横綱 若乃花勝
の最大のライバル。
先日もお話ししましたが
「曙貴時代」なんて表現をする人は
当時ほとんどいなかった。
相撲記者や相撲担当のアナウンサーが
ちょっと使うくらい。
国民すべてが口にしたのは「若貴」。
つまりあの時代ははっきり言って
「若貴時代」なんです。
「国民すべて」なんて言いましたが
それが大げさではないくらい
あの兄弟の人気は凄まじかった。
「若貴フィーバー」という言葉は
過剰でも過言でもなんでもない。
老人から子供からJKまで
みんながみんな「若貴」だった。
そのふたりの前に立ちはだかったのが
「曙太郎」
その人だったのです。
ハワイ、オワフ島出身で
当然、肌の色は黒く
2m3cmの長身で
顔も怖かった。
しかも「若貴」の同期。
国民はあっという間に
「若貴」というヒーローに対する「敵役」へと、
曙を育て上げてしまった。
「ライバル」なんて表現は生やさしい。
ほとんど「憎悪の対象」であったような気がする。
曙が若貴に勝つと
「これでもか」というほどの
悲鳴とため息。
若貴が曙に勝てば
国技館も崩れんばかりの
歓声と拍手。
今でこそ
白鵬や照ノ富士が
「ヘイトだ」なんて言って
そういう偏向的歓声に文句を言うが
曙はこのあからさまな「排他的偏向応援」に
じっと耐え続けた。
満腔の悲哀と孤独をたたえて
花道を引っ込む曙の背中を押してやりたくなるまで
そう時間はかからなかった。
曙は
日本の言葉も
大相撲のしきたりも知らないまま
18歳で来日。
すでに大活躍の小錦や
親方の東関といった
ハワイの先輩はいるものの
若貴のように
いつも周囲に人がいるような存在でないことには
間違いない。
彼は
愛すべき家族と遠く離れ
見ず知らずの異国の地で
土俵で相手と戦うと同時に
目には見えない孤独とも戦っていたのだ。
これだけの
ハンディキャップを抱えながらも
日本人は
「曙は身体がデカイだけじゃないか」
「あの喉輪は卑怯だ」
と悪しざまに言い続け
若乃花、貴乃花に
愛と情熱を捧げた。
しかし曙は沈黙を守り
ただただ稽古をした。
結果
同期の誰よりも早く
大関に昇進し
横綱へ上り詰めた。
それだけでも十分に立派なのに
さらには11回の優勝を果たし
しかもライバル貴乃花とは
21勝21敗というまったくの五分。
「優勝11回？たいしたことないな」
なんて笑う人は相撲を知らない。
曙の所属する東関部屋には
有力な兄弟弟子がいなかった。
したがって
同部屋力士の援護射撃は皆無。
若貴をはじめ二子山勢
魁皇をはじめとする
横綱を平気で食うような大関ゴロゴロ
関脇以下でも
「どうしてコイツが大関になれない？」
なんて力士が何人もいるなかでの
11回の優勝。
これだけ立派な横綱を
当時の世間が正当に評価していたとは
到底思われない。
だから……
世間が若貴に熱くなればなるほど
僕は曙に熱くなったのだ。
ケータイなんかなかった当時
僕は曙の勝敗が気になると
公衆電話から実家に電話をしたものだ。
大事な一番で
僕がテレビの前にいると
負けることが多かったので
あえて見ないようにしたこともある。
曙が優勝すると
キヨスクに置いてあるスポーツ新聞全紙を
一部ずつ買ったりもした。
一度だけだが
年賀状も出したことがある。
（さすがに返事はなかったが……）
そんな曙も
後年はヘルニアに苦しみ
不本意な土俵や休場も増えた。
同時に僕の相撲熱も徐々に冷めていったが
ひさびさに
優勝したときは
ずいぶんと喜んだものだ。
しかし
次の場所はまた休場し
休場したと思ったら
あっという間に引退してしまった。
引退を知って
「あぁ、あれはひさびさに体調が良かったんじゃない。最後の力を振り絞って優勝したんだな」
と、しんみりした。
と同時に
入幕からずっと応援してきた曙の
最後の出場場所が「優勝」であることに
ひいきの末端にいる者として
とても誇らしかった。
そんな曙も
東関部屋を継承できずに
早々に協会を去ったのは残念だった。
それを
とくに強く思ったのが
貴乃花親方があれこれ騒動を起こしたとき。
「どうして貴乃花のそばに曙がいないんだ！」
と、実に悔しかった。
曙は
やさしさと頭脳においては
なかなか評判がよかったようで
テレビでのトークなどを聞いていると
「なるほど。やさしそうな笑顔だし、何より頭の回転はけっこう速いかもしれない」
とよく思った。
貴乃花と協会幹部との抗争の折も
曙が間に入ってうまく周旋できれば
また違う結果になったかも知れない。
そして
曙ほどの「格」がなければ
周旋役はつとまらなかったであろう。
実に惜しい……
そんな曙も
K-1やらプロレスに流れて
醜態に近いものを世間にさらし
心臓の病気で倒れてからは
寝たきりと聞いただけで
そのほかのことは
世間にまったく漏れてこない。
あぁ、なんと悲しい人よ……
ただ、あの悲哀が
どうにもたまらない。
あの大きい
そして悲しい背中を思うにつけ
僕は一掬の涙を禁じえないのである。
長くなりました。
次回は
横綱にしてあげたかった名大関をとりあげて
新作浪曲『まだ見ぬ横綱』にちなんだ
相撲の話を終えることとしましょう。
してして。
今日の写メは
府中の大國魂神社にある
立派な土俵。
屋根付きだなんて
ほんとに立派！
あちこちを歩いていて
土俵のある神社を見つけると
とてもうれしくなります。
次回もよろしくお願いします。
以上です。
あらためて……
いい横綱でした。
次回もよろしくお願いします。
☆鶴 祥一郎作品上演のお知らせ★
◎新旧2作同時口演決定！
旧作『近藤勇のぼんやり女房』
新作『土方歳三港の斬り込み』
がひとつの会で同時口演されます
令和6年(2024)4月14日(日)
＠espace天
12：30開場／13：00開演
『第1回志乃ぶの十番勝負～VS東家三可子～』にて
口演・東家志乃ぶ／曲師・玉川鈴
ご予約2200円／当日2700円（1ｄつき）
配信1500円（アーカイブ3日間）
ご観覧予約は
配信お申し込みは
まで
◎『近藤勇のぼんやり女房』口演！
令和6年（2024）4月28日（日）
＠上野広小路亭
『恭太郎・志乃ぶ二人会』にて
12：30開場／13：00開演
口演・東家志乃ぶ／曲師・馬越ノリ子
ご予約2000円／当日2500円
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視聴回数800突破！（令和4年6月7日公開/令和6年3月1日現在）
令和3年11月13日初演
浪曲『近藤勇のぼんやり女房』
（口演・東家志乃ぶ/三味線・伊丹秀敏）
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志乃ぶさん前座時代の
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以下のリンクから
ぜひぜひご覧くださいませ！
◎鶴 祥一郎からのお願い◎
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